日々のことば

自分流・日々のことば「今を生きる」 Posted on 2025/06/07 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
「歳月人を待たず」ということばがありますが、これは、時間は人間の都合などに関係なくどんどん過ぎていくもの、だから、まずは今を大事にしなさい、ということですね。
本来は、勉強は若いうちにやっとけ、という時に使われることが多かったことばのようです。
ま、でも、もう若くないぼくなんかにも役立ちます。
まさに、人生というもの、歳月人を待たず、の連続でした。
ほんとに、毎日って、ものすごい勢いで流れていますよね。
朝、起きた、と思って過ごしていたら、気が付くともうベッドの中にいて、あれ、ぼくまた寝るんだ、・・・の繰り返しです。
起きる時も、やや、また朝が来た、と驚いてばっかり。
光陰矢の如しということばもありますが、とにかく、時間というものは容赦がありません。
ぼうっとしていると何もできないうちに人生が終わっちゃう!
なので、明日じゃなく今が大事だ、ということですな。
ぼくは明日を信じてない派なので、今に生きることを切に心がけて生きています。
だいたい、エッセイの仕事など締め切りのあるものはあまり引き受けないのですが、だって、締め切りのことを考えると苦しくなるじゃないですか、だから、たいていの場合、引き受けたら、引き受けたその日に書いてしまうわけです。あはは。
小説は無理ですけれど・・・。

自分流・日々のことば「今を生きる」



ぼくは若かった頃、いつも未来のことばかり、考えていました。
1年後にこうやっている、2年後にこうなっている、3年後にこれをはじめているはず、という具合に・・・。
で、1年後、気が付くと、まだ何も出来ておらず、結局、全部一年ずつスライドしているだけだって、気が付いたわけです。
ある日、これじゃあ、いつまでたっても何もできないじゃないか、と悟って、未来の計画を持たないことに決めました。
ぼくにとっては一大決意だったわけです。
もっとも、完成度の高いものが出来たかどうか疑問が残りますが、やると思った時から、必ずその瞬間にスタートするようになったので、作品はなんとか次々出来るようになりました。
「時間を使う」といいますけれど、時間とかスケジュールって、まやかしのようなものじゃないですかね。
だいたい、腕時計をしたことがないぼくなんで、時間という概念をあまり持たないから、今を生きる、方が楽になりました。
「とにかく今やる、今すぐに着手する」というのが、ぼくのスタイルになったのです。
このスタイルの利点は、まず手を付けるので、なんらか形が出来る、という点です。
出来不出来は正直大いにありましたが、ともかく、何かが生まれるのは確かでした。
来年にはやる、というのは、出来ない場合がありますが、今すぐに着手となると、不完全でもスタートが切れる、というわけで、小説も、失敗を繰り返しましたが、繰り返すだけの経験は増えていき、実際、その日に書き上げるわけではないにしても、ある時、ちゃんとしたものが完成をした、というわけです。
作家になる、と夢を持つことはいいんですけれど、本当に作家になる人は少ない。歳月人を待たず、だからです。
ま、しかし、用意周到にやった人の方がしっかりしたものを作ることが出来るのは間違いないので、早ければいいというわけじゃないですよね。笑。
ぼくは「歳月人を待たず」は、今を大事に着実にやっていけ、という教えだとおもっているんです。
小説なんて、一字一字の勝負ですから、三段跳びには向きません。でも、一字一字の勝負ということは、今をおろそかにできない戦い、ということでもあります。
人生は今の連続、だから、今、やりましょう。
今です!!!
ということで、はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「歳月人を待たず」

自分流・日々のことば「今を生きる」



自分流×帝京大学

自分流・日々のことば「今を生きる」

大切なお知らせになります。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。


https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0696.html

7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて。
10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。出没しますよ!
・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、5の付く日にオンエアー中。

TSUJI VILLE

自分流・日々のことば「今を生きる」



自分流・日々のことば「今を生きる」

posted by 辻 仁成

辻 仁成

▷記事一覧

Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。