日々のことば
自分流・日々のことば「災いと幸せ」 Posted on 2025/06/10 辻 仁成 作家 パリ
おつかされまです。
毎日が目まぐるしく過ぎていきますが、その中で、ものすごくいいこともあれば、死にたくなるほどつらいこともありますよね。
何十年も生きているのに、これだけは、予測がつきません。
思い通りにならない、ということです。
☆
ノルマンディの田舎暮らしですが、日々、なんらかのメッセージが届きます。
今日はちょっと辛い知らせがありました。きつかった!
自分の仕事があまりうまくいかなかったのです。
でも、同じタイミングで、ちょっといい知らせも舞い込んできました。ほっとしました。
それは、即座にいい知らせではなかったのですが、可能性を示すメッセージでした。
人間って、こういうものに、日々、一喜一憂しますね。
☆
「吉凶禍福」ということばをご存じでしょうか?
吉凶とは、ま、縁起のいいことと、悪いことのこと。吉と凶ですからね。
禍福も同じような意味で、災いと幸せということです。
この四文字を「吉凶禍福」(きっきょうかふく)と呼び、全部ひっくるめて、最高幸せなこともあれば最大不幸なこともある、とでもいうのでしょうか、同じような意味をダブルで重ねて、強調しているわけですね、災いと幸い、があることを。
人生、山あり谷あり、と同じような意味でしょう。
人生には、両面があり、それが背中合わせなんだ、という教えです。
吉凶禍福、と声にすることで、イイことが起きた時は、自分に浮かれるな、とくぎを刺し、悪いことが起きた時には、必ずイイこともあるよ、と宥める時に有効なことば、となります。
ま、今日のぼくにはちょうどいいことばだったので、ご紹介しましたが、昔、塞翁という老人がいたんですよ。(正確には、塞という国にいた老人、翁のことだから、塞翁となります)
この話、お気づきですか?
「人間万事塞翁が馬」(にんげんばんじさいおうがうま)
という故事がありますよね。※じんかんばんじさいおうがうま、とも読みます。にんげんは人のこと、じんかんは世の中を意味します。
ぼくはこのことばによく助けられてきました。
どういう話しかといいますと、大昔、やはり中国でのことですが、北の方に住んでいた塞翁という名前の老人が馬をもっていたんだそうです。
いい馬だったそうです。
ところがある日、その大事にしていた馬が逃げちゃったんですね。
みんなが心配しましたが、塞翁は悲嘆しなかった、といいます。
なぜでしょうね。
すると、ある日、その逃げた馬が、もっと素晴らしい馬(駿馬)を引き連れて戻って来た、というのですから、びっくり。
周囲の人たちは驚き、とたんに祝福ムードになるわけです。
ところが、塞翁老人は、喜ばなかったんですね。
なぜでしょうか?
その後、その馬から老人の息子が落馬して、ひどい骨折をおうことになるんです。歩けなくなるほどの大骨折です。
みんな悲しみましたが、老人は、そういう顔をしなかった、というのです。
一年後、胡という国の軍隊が攻めてきて、男たちが駆り出され、ほとんどが戦死してしまうんですが、足を折った息子は招集されず、死なずにすんだわけです。
でも、たぶん、塞翁は、喜ぶわけはありません。
じっとこの世の出来事を見守っていたことでしょう。
この言い伝えから、人間万事塞翁が馬、ということわざが生まれます。
吉凶禍福は予測がつかないので、世の中の幸不幸というものは何が起こるかわからないのだから、一喜一憂しない、という意味なのだそうです。
人間が出来てないぼくなどにはできないことですが、要は、イイ時もあれば、悪い時もあるんだから、乗り越えていけ、という戒めでしょうな。
人間万事塞翁が馬
いいことばじゃないですか。
ここぞという時に、心に置いておくと救われることがあります。
はい、吉凶禍福の毎日ですが、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「人間万事塞翁が馬」
お知らせです。
web版の辻仁成美術館が開館しましたよ。
下のURLをクリックください。画質的には、パソコンで入場していただくと、より美しい映像をお愉しみいただけます。
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https://tsuji-art.com/
展覧会のお知らせ。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。
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https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0696.html
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7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて。
10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。出没しますよ!
・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、5の付く日にオンエアー中。
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今日のごはん。
ご馳走じゃないですが、そぼろご飯を作ったので、みて、笑。グリーンピース炊いて、卵炒って、ひき肉をそぼろにして、美味しかったです。きつかった一日がやや上向きになりました。日々の小さなことをかき集めて、少しでも、前に向いて行きましょうよ。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。