日々のことば
自分流・日々のことば「退路を断って」 Posted on 2025/06/14 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
ぼくは会社員を経験したことがありません。
だから、ボーナスも月給も、もらったことないです。
福利厚生も・・・。笑。
ずっと、自由業と言えば聞こえはいいが、明日、どうなるかわからない職業と言える仕事でしたし、今も、そうなのです。
で、社会人になって、大きな出版社とか、大きなレコード会社とか、映画会社の人と仕事をするようになるんですが、ものごとがうまくいかなくなると、サラリーマンの人たちに
「辻、すまん。しょせん、俺たちサラリーマンだからさ、これ以上はできないんだ。やりたい気持ちは一緒なんだけれど、もうしわけない。じゃあな、幸運を祈る」
と言われてきました。
一緒にやってきたプロジェクトも、物事の流れが悪くなると、大企業に勤めている人たちは、こう言い残して、去っていったのです。
で、去れない自由業のぼくだけが残る、の繰り返しでした。
それは、しょうがないことだと、もちろん、理解しています。
むしろ、付き合ってもらえて、ありがたかった、し、だから、寂しくもありました。
☆
ということで、ぼくは、組織に入ることがなかったので、ずっと「背水の陣」でやってきたというか、映画を作るのでも、アルバムを制作するのでも、何かやる時はいつも、最終的にリスクを自分で抱えて、孤高に「退路を断って」がんばってきたわけです。
はい、今日は「背水の陣」ということばについて、考えてみましょうかね。笑。
ということで、「背水の陣」ということば、これも、昔々の中国の武将がうみだしたことば(戦略?)なのです。
中国の戦国時代末期に、韓信というすごい武将がおりました。
かなりの戦略家だったようです。
今の時代だったら、新興企業の敏腕社長という感じでしょうかね。
闘いの話です。
敵軍は自分(韓信)の軍隊よりも多く、しかも、高地に陣取っていました。
戦争って、背後に川とか海とかがあると退却できないのでフリなんですね。
でも、韓信はあえて、数の少ない自軍を川のほとりに陣取らせたわけです。
川を背にするのは逃げられないので、絶対に、とらない戦略と言われています。今のウクライナ・ロシアの戦場でも、高地に陣取る方が有利なのは、時代が違っても、一緒のようです。
高地に陣取った敵の武将は、「なんだあいつら戦争を知らんのか」と油断をしたのだそうです。
そして、韓信の兵士たちは逆に退却できないことを悟り、死に物狂いになりました。
敵が油断をしている隙に、韓信の秘密工作部隊が油断をしている敵軍の背後に回り込み、挟み撃ちにして、勝利をあげた、という伝説が残っているんだそうで、その後、この戦略を人々が「背水の陣」作戦と呼んだのだ、とか、・・・。なるほどねー。
で、ぼくは一人になって、窮地に陥ると、壁にむかって「背水の陣じゃああああ」と叫んでおります。
退路を断って、つきすすめー、と気合を入れて、自分の士気をアップさせておるわけです。
毎回、背水の陣なので、疲れ気味ですが、この「退路を断つ」、というのも、そして「排水の陣」もすべてを投げ出す、死を覚悟する、という意味にとらえてはいけません。
その逆なんです。
退路を断つことで、底力を引き出す、勝つためのチャンスをアップさせる、と考えるべきなのです。
自営業をやっておられる皆さん、組織がないので戦えないと嘆く前に、ぜひ、この「背水の陣」作戦で、乗り越えましょう。
やるしかないなら、やったれ、という感じですかね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「一生、つねに背水の陣」
今日のこはん。
「冷凍グリーンピース、枝豆、そら豆のオムレツ」
お知らせですぞ。
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。
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https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0696.html
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7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて。
10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。出没しますよ!
・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、5の付く日にオンエアー中。
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・辻仁成美術館サイト。
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https://tsuji-art.com/
※ 写真に写っている虫は、クワガタムシの一種みたいです。具体的には、ヨーロッパでよく見られる ノコギリクワガタ属(Lucanus)や、コクワガタ属(Dorcus) だと、知人の昆虫学者が教えてくれました。うちのアトリエの玄関にて!
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。