日々のことば

自分流・日々のことば「人間の度量」 Posted on 2025/06/16 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
昔、詩人の谷川俊太郎さんがうちに遊びに来たことがありました。
その時、谷川さんが言った言葉がその後のぼくの生きる上での一つの指針となったので、お知らせしておきます。
「辻さん、はじめて来た仕事は引き受ける。でも、一度引き受けて嫌な思いをしたら二度と引き受けない」
その時、ぼくは30歳でしたが、このことばに心を鷲掴みされ、その後、今日まで、谷川さんのことばの影響を受け続けることになります。
なので、やったことのない仕事が舞い込んだ場合、悩むのだったら、引き受けることにしてきました。
逆に、そういやって引き受けて損だったな、苦しかったな、と思った仕事はお金がよくても、二度と引き受けないようになりました。はい、笑。

あの時、谷川さんからこの方法を教わったことが、ぼくのその後の人生に、面白い変化を与えてくれたわけです。
さすが、偉大な詩人ですよね。
「でも、ちょっと父さんはいろいろとやり過ぎだよね」
と子供に言われたこともありますけれど、やってみないとわからないこともありますし、依頼があるだけいい話で、経験を積むことはすべての創作や人生に、なにがしかのヒントを届けてくれるものだと思うのです。
人間は、閉ざして生きることも可能ですが、間口を狭くしてしまうのは、可能性を閉ざすことにもつながり、勿体ないですよね。
好奇心が勝つなら、やって失敗をしてみるのも、勉強になります。
「失敗し過ぎでしょ」
と子供に言われますが、失敗は成功の母、ですからね。いい勉強になっております。
同じように、人間関係でもぼくは割と寛大な立場をとり続けています。
「去る者は追わず来る者は拒まず」

自分流・日々のことば「人間の度量」



ぼくはぼくから離れていく人を引き留めたり、呼び止めたことはありません。
それはしょうがないこですから、仕方がないなァ、と諦めます。
逆に、慕って近づいて来る人たちは、拒む必要もないので、がんがん、受け入れています。
谷川さんのことばに、近いものがありませんか?
どういうことか、というと、度量を大きく持って生きたい、ということです。
可能性というものは、閉ざせばそれ以上にはならないし、人間関係も未練だとか嫉妬だとか偉そうにしているうちは、限度がある、ということだと思います。

実は谷川さんとは30歳の一時期、蜜月がありましたが、その後は、30年以上、やりとりも、会うこともありませんでした。
彼のことばはぼくの中に残りましたが、その後は連絡を取り合うこともなかったのです。
なぜか、わまりません。
喧嘩をしたこともないですし、でも、もしかしたら、そこになんらかの距離が出来たのかもしれませんね。
ぼくはずっと尊敬をして生きてきましたが、その後はご縁がありませんでした。
「去る者は日日に疎し」
ということばがありますね。
親しかった友人も遠く離れてしまうと、次第に縁遠くなる、ということわざです。
これは、長く生きていれば、当然のこと、なのです。
それだけ多くの人と出会い、それだけ多くの別れがあります。
英語だと、
Out of sight,Out of minds.
となります。
寂しいことではありますが、人間のキャパシティにも限界があるということでしょう。
でもですよ、ぼくは谷川さんから言われたことばを持って生きていますし、きっと、死ぬまで、持ち続けることになると思っています。
ことばは、生き続けるのだから、言霊、です。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「去る者は追わず来る者は拒まず」

自分流×帝京大学

今日のごはん。
「インドカレー」

自分流・日々のことば「人間の度量」

自分流・日々のことば「人間の度量」

それじゃあ、お知らせですぞ。
もう、3週間後に迫っています。日本での個展が、二つもありますよ。楽しみでなりませんね。一生懸命、やってきたことが、また一つ、世に出るわけですから・・・。

・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、2週間開催されます。
※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。


https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0696.html

7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて、開催。

10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。新境地を打ち出します。
2026年、1月中旬から、パリの日動画廊でも、グループ展に参加させて頂きます。

・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、オンエアー中。

TSUJI VILLE

自分流・日々のことば「人間の度量」



自分流・日々のことば「人間の度量」

自分流・日々のことば「人間の度量」



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。