日々のことば
自分流・日々のことば「親孝行」 Posted on 2025/06/17 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
実は今日、ぼくの母親、恭子さんの誕生日でした。
しかも、90歳の誕生日です。
「母さん、誕生日おめでとう」
そう電話で告げると、ぼくの母は、はにかむように微笑んでみせ、
「まさか、自分が90歳まで生きるとは思ってもおらんかったとよ。だけん、驚いとっと」
というのです。
「いやいや、まだまだここからですよ。頭もちゃんと動いているし、身体も元気ですから、長生きしますね。ぼくは夏に日本に帰るので、そこでお祝いをしたいと思っていますよ」
と伝えたら、
「ありがとう」
と母さんは言うのでした。
ぼくの弟が母さんと一緒に暮らしています。
☆
親孝行の孝行ですが、こうこう、と読みます。
「孝」という漢字には「父さん母さんを大切にする」という意味があるんですね。
そして、「行」は「行動すること」となり、二つがあわさって、親に恩を忘れず大切にしましょう、という意味になります。
どうやら、これも、儒教の教えのようです。
この「時分」とは、その時、ということです。「自分」ではありません。
☆
ことわざに、
「孝行のしたい時分に親はなし」
というのがあります。
江戸時代の川柳から生まれたことばと言われていますね。
まあ、みなさん、心のどこかで、このことばにはうなずいたり、涙したり、中には反発のある人もいるでしょうし、でも、みんな、なにがしか、心にひっかかることばであることは間違いないでしょうね。
自分の親が、元気な時には、なんでか、子供は甘えていいという考え方もあるので、反発したり、むず痒いというのか、感謝を素直に言いにくいものです。
親が生きているうちは、だから、その苦労や有り難みになかなか、心底、気が付けないのも事実です。
で、子供というのは、親に文句を言いますし、甘えますし、時には反発もしてしまうわけです。
で、自分も年を重ね、それなりの経験を積んだ時に、ああ、父さんには父さんにしかわからない苦労があったのだな、とようやく、気が付くというわけです。
しかし、その時には親がこの世にいなくなっていたりします。
ぼくの場合、父に対してが、まさに、そうでした。
今頃になって、父さんのおかげだった、と思うこともあるんですね。母さんは夢に一度も出てきたことはありませんが、父さんは、けっこうな頻度で出てきます。
でも、若い頃は気づかなかった。
むしろ、「それは親の義務だろ」くらいに、思ってました。
☆
ぼくにも息子がいます。
大切に育ててきたつもりですが、たいした親ではないので、息子はぼくのこと、どう思っているのか気になります。
しかし、ぼくは最近、気が付きました。
親がいなくなってからできる親孝行というものもあるんだ、と。それはね、やはり、親を思い続け、自分なりに、清く正しく生きることなんだと思いますよ。
人間はこのことを忘れてはなりませんね。
命というものの尊さがそこにこそあるからです。
子供に反発をされても、親ですから、受け止めないとならない、のと一緒です。子も親も義務なんかないんです。
この宇宙の生命の連鎖の中で、親子でいられたことを、忘れず、大切に心に持って生きること、それがほんとうの親孝行だと思います。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「いつまでもあると思うのな親と金」
今日のごはん。
「ちらし寿司」
ぼくのフランスの音楽仲間、ベルトランが50歳の誕生日ということで、お寿司をご馳走してあげました、あはは。サンジェルマン・デ・プレにある行きつけのすし屋にて。誕生日プレゼントは「似顔絵イラスト」にしました! ぼくは友だちが少ないので、少ないともだちは大切にします。
たいしたお知らせではありませんが、笑。
☆
・辻仁成の個展開催
7月9日から、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーで、2週間開催されます。
※ 初日、7月9日だけ、混雑をさけるために、入場抽選があります。それに関して、以下のURLからご確認ください。
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https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0696.html
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7月23日から、岡山天満屋本店美術画廊にて、開催。天満屋さんも、初日だけ入場制限があるようです。詳しくはまた、お知らせさせてください。
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そして、10月13日から、パリ、マレ地区にある画廊、20THORIGNYで2週間、開催いたします。新境地を打ち出します。
2026年、1月中旬から、パリの日動画廊でも、グループ展に参加させて頂きます。
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・日々のことばを、生放送ラジオで、ツジビルは毎月3回、オンエアー中。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。