日々のことば
日々のことば「道程」 Posted on 2025/07/06 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
人生は旅である、と昔から世界中で言われてきました。
まさに、人間はそういう人生を生きて、生きることで旅を続けていくのです。
旅行には目的地がありますが、旅には目的地はありません。
旅はその過程、道程がゴールなのかもしれませんね。
☆
高村光太郎の詩を思い出します。
『道程』
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちにさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
常に父の気魄きはくを僕に充みたせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため
もともと、荒野に人道はありません。
人間が入り、そこに道が出来る、というわけです。
人間は社会と呼ばれる荒野へも踏み出し、道が切り開かれていきます。
それはまた人間が抱える一生という人生にも通じるものがあります。
我々は、その人生を振り返る時、そこに道が出来ていることを悟ることが出来るわけです。
あらゆる人の背後に偉大な道程があります。
光太郎の詩は、素晴らしき人生を称える詩でもありますね。
ぼくもずっと人生は旅だと思っていました。
ツアー旅行のようなものは、パリとか、モンサンミッシェルのような目的地がありますからね、旅とは異なります。
でも、人生の旅というものにおいて、目的地は特に必要ない。
むしろその旅そのものが、ゴールだったりするのです。
だから、ぼくは人生を急がないように愉しみながら、苦難でさえも、意味があると思って旅の行程を大切に生きてきたつもりです。
老子がいいましたね、
「千里の道も一歩から」
と。
一歩一歩を噛み締め、旅そのものが人生の意味なのだと思える時、ぼくらの生涯は素晴らしきものになります。
そして、光太郎さんが書かれたように、「道」というものは人のうしろに出来るものなんです。
急ぐ必要もありません。
焦る必要もないんです。
何か、うまくいかない時もあるでしょうし、挫折もあるかもしれません。
でも、振り返るとそこにはあなたが歩いた道、ロング&ワインディングロードが出来ているのではないでしょうか・・・。
歩いたからこそできた道程ですね。
よく生きています。素晴らしい。
さらに道程の記録更新といきましょうか、
はい、今日も精一杯生きますよ。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る」
今日のごはん。
「納豆塩辛」
「Le Visiteur」展、
東京、7月9日から21日まで、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーにて。
岡山、7月23日から28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。