日々のことば

日々のことば「不安」 Posted on 2025/07/15 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
ぼくはこう見えて、けっこう、心配性なんです。
人生失敗だらけなのに、絶対に失敗したくないものだから、普段から、あれやこれや、前もって作戦を練ってから行動するんですが、これが、まず失敗の原因ナンバーワンなのです。
で、今日のことばは、
「案ずるより産むが易し」(あんずるよりうむがやすし)
ということになります。
これは、読んでそのまま、やってみたら意外と簡単にできた、ということですね。
実際にやってみると案外たやすいよね、という意味。
やる前からあれこれと心配していたほどの事は、実際やってみたらぜんぜんなくて、あっという間にできちゃった、ということでしょうか・・・。
あれこれと悩むより、やってみなはれ、そしたら、そこまで悩むことでもないわな、という教え。
ま、わからないでもないですが、でも、現実では、そんなあっさりできちゃった、なんてことはありえません。実際には、易し、ではない。難し。
世の中、そう甘いものじゃないでしょ。
もちろん、意外にすぐできた、という時に使うんですが、缶詰が簡単に開いた時とかね。水たまりを飛んだら、飛べた、とかね、その程度の時に使う、ことばに、過ぎません。
信じちゃいけません、ということです。笑。

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日々のことば「不安」



しかし、この「案ずるより産むが易し」の意味には、違うメッセージが隠されているような気がしてなりません。
あまり、やる前から悩みすぎるな、ということは、その通りですよね。やってみなきゃわからないのが、人生、ですから。
悩みすぎたせいで、合格できた大学や就職したかった企業に挑まない、ということもまれにあります。
その、戒め、と思うのがいいかもしれない。
でも、簡単にできるものなんか、この世にはないです。
諦めないことが肝心だということが、このことわざの裏側に隠されている本質かもしれない。
人間は不安だから、冒険はできない。安全な道を歩いてしまう。でも、中には度胸のある人がいて、人が渡らない橋を渡って、大成功を収めたりする、こともあるわけで、そういう人は渡り切ったあとに、
「案ずるより産むが易し」
と叫ぶわけです。
橋を渡るのが怖かった人たちは、社長さんにはなれない。
この言葉には、実は、そういう「やったれー」精神が含まれているような気がします。
やっぱり、人と違った道へ出て、人の何倍も努力した人が、勝ち取った時に、意外とうまくやれた、と余裕でぶっこく、のではないでしょうか。
裏を返せば、このことわざには「行動に出よ、悩んでいる暇があったら、さっさと別ルートから挑め」という意味があるわけです。
簡単なことはない、でも、悩みすぎて諦めていると何もつかめない、だから、思い切ってやっちゃおうぜ、ということかな。
ことわざ、いいんですけれど、言うのは「簡単」ですよね?
あはは。
はい、人は人、精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「案ずるより産むが易し」

自分流×帝京大学

日々のことば「不安」

今日のごはん。
「水茄子」

日々のことば「不安」


「Le Visiteur」展、
東京、7月9日から21日まで、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーにて。
岡山、7月23日から28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。

そして、毎月3回やっているラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。