日々のことば
日々のことば「一円」 Posted on 2025/07/25 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
岡山で個展がはじまりました。
たくさんの方々がノルマンディで描いたぼくの作品たちをご覧になられている様子、少し離れた後方から、じっと見ていると、なんでしょう、不思議なご縁を感じます。
初日が終わって、岡山の居酒屋に行き、画廊の方々と乾杯をしたのですが、帰りにコンビニに立ち寄った時のことです。
ぼくの前のお客さんが、おつりの3円を、いらない、と拒否されたわけです。
店員さんも驚いていましたが、その人はそのまま出て行かれました。
カウンターに、3円が、残ったのです。
「3円」でしたが、ぼくには「3縁」に見えました。
この人、3縁を、捨てちゃったのかな、と思ったのです。
レジ横に寄付箱が設置されているから、せめて、そこに入れればそのご縁は繋がるのに、もったいな~、とも思いました。
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実は、ぼくがミュージシャンだった頃に、当時のディレクターさんが、やはりコンビニで買い物をしたあと、お釣りの中から、円玉だけを取り出し、駐車場にばらまいたことがありました。
「こんなもの、いらないよ」
と呟きながら・・・。
ぼくは、真剣に、びっくりしました。
一円といえどもお金ですからね、お金をこんな風に捨てる人は、お金持ちにはならないだろうな、と余計なことを思ったものです。余計ですね。すいません。
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「一円を笑う者は一円に泣く」
ということばがございますね。
まさに、これ、です。
時々、コンビニに行くと、一円足りないことがあります。
わずか一円なのだけれど、一円足りないことで、手持ちの細かい現金で買えず、困った経験、ありませんか?
結局、大きな札を崩すことになり、ポケットの中が小銭だらけになる、という不運。
嫌ですよね。
ぼくは一円が落ちたら、ちゃんとしゃがんで拾ってポケットに入れますよ。
それは、自分のためにです。
これが誰かとのご縁だとしたら、一縁を失うことになるのじゃないか、と思ってしまうからなんです。
円という漢字、縁と響きが一緒ですものね。
どんな状況でもきちっとしておくことが、人生においては大事なことじゃないか、と思う、今日この頃です。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「一円を笑う者は一円に泣く」
今日のごはん。
「瀬戸のしらすご飯」
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「Le Visiteur」展、
現在、岡山で個展開催中です。新作37点展示。
岡山、7月28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。