日々のことば

日々のことば「祝」 Posted on 2025/07/27 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
うちの母さんが、ついに、90歳になりました。
90年も生きた、おめでとうございます、ですね。
そこで、福岡の中州で母さんのためのシークレット・ライブをやらせてもらいましたよ。
映画でお世話になった山笠の中州流の比山さんに会場を探して頂きました。
中洲の中心にある「ザ・ライブリーホテル」さんがなんと、心意気で、貸してくださったのです。
ありがとうございます。

映画「中洲のこども」の仲間たちがかけつけてくださり、音響や照明を手伝ってくださいました。
そして、中洲流の若人集(老若男女問わず)がかけつけてくださいましてね、ぼくのミニライブの後に、みんなで、「祝いめでた」をうたってくださり、そして、最後に、博多手一本、という、ものすごい式典になったわけです。
それはそれは豪華な90歳記念ライブが出来た、という次第でございます。
どうですか、母さんのこの幸せそうな顔!!!
ありがとうございます。
1万キロ遠方で生きているぼくに出来ることはなんだろう、と考えてのシークレットライブ強行軍でございました。
大好きな中洲で、熱気あふれる中洲の皆さんと母さんの長生きを祝うことが出来たのだから、ぼくも、幸せでございました。

日々のことば「祝」

※ 「祝いめでた」というのは博多祇園山笠などでうたわれるものですが、ほか、結婚式など博多の祝いの場で歌われる地元福岡の民謡でもあるわけです。
通常は、最初にソロで「祝い目出たーの若松様よ 若松様よ」の歌詞からはじまり、その後、参加者全員でことばを繰り返します。
祝い唄を歌い終わった後、「博多手一本」で締めくくるのが習わしなんです。
めでたいじゃないですか?
全員屹立し、手を前にもって、しゃんしゃん、とやった瞬間は、圧巻でございました。
ぼくも弟の恒久も、感動させて頂きました。

日々のことば「祝」

辻仁成 Art Gallery

日々のことば「祝」



またまた、論語からですが、この名文、みなさん、ご存じですよね?
「子曰く、吾、十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知り、六十にして耳順い、七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」
論語というのは、孔子自身が書いたものではなく、孔子の行動とか、言動を弟子の皆さんがまとめて記録編纂をしたものだそうです。
しかも、孔子の死後、数百年かけて完成された、と言われています。ちょっと、仏典の完成と道筋が似ていますね。
なので、最初の「子曰く」は「孔子先生が言いました」ということになるのです。
ちょっとおおざっぱで恐縮ですが、現代語訳してみましょうか。
「孔子先生が言いました。実は、私は15歳で学問を志したのです。そして、30歳で自立し、40歳で迷いが消え去って、50歳で天命、つまり、自分の使命を知ることが出来、60歳でようやく人の言葉を素直に聞けるようになってですね、70歳で、なんとか、気の赴くままに行動しても道を踏み外すことがなくなったんですよ」
という感じになりますかね。受け継がれたことばなんです。
すごいですね。
 この文章から、見えてくるのは、孔子という人の人生との素晴らしい向き合い方、でしょうか。
孔子でさえ、70歳までは行動をしても道に外れてしまうこともしばしばだった、ということなんですから・・・。
ぼくなんか、まだ、ひよっこですな。笑。
さて、ぼくの母親は、90歳になりました。
杖もつかず、歩くので、あと数年は頑張れるかもしれませんね。
中洲流の皆さんにステージ上から、訴えました。
「よろしければ、そこに90歳になるぼくの母がいます。もし、みなさんがやってくださるならば、祝いめでた、をうたっていただき、その最後に、博多手一本でしめてもらえませんでしょうか? そうすれば母は幸福になります」
すると、会場にいた中洲流の年配の先輩たちが立ち上がり、3名が壇上に出てきて、祝いめでた、を歌ってくださったのです。
素晴らしい響きでございました。
最後に、手一本です。
感無量でございました。
長生きをする、それは毎日が金賞なのだと思うのです。
母さんの笑顔、息子二人は喜びました。
はい、また今日もまた精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

日々のことば「祝」

自分流×帝京大学

日々のことば「祝」



日々のことば「祝」


「Le Visiteur」展、
現在、岡山で個展開催中です。新作37点展示。
岡山、7月28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。

そして、毎月3回やっているラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE

今日のひとこと。
「祝いめでた」

今日のごはん
「七輪焼き」
写真は仲良しの谷口さん。中洲です。

日々のことば「祝」



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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。