日々のことば

日々のことば「怠らず」 Posted on 2025/07/31 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
いつも不思議に思うことなんですが、美術館に行くと、ゴッホとか、モネとか、マティスの作品が今も美しい光を放って、生き生きと飾られていますよね。
あれ、驚きませんか?
100年前の絵なんかも、鮮やかに展示されているわけですから。しかし、それを描いた人はもうこの世にはいないんです。
ゴッホに関して言えば、彼が生きていた頃に「売れた」作品はわずか一点だった、とか・・・。
彼はたくさんの絵を残していますが、その壮絶な人生を投影した作品たちは、今も現代人になにがしかの、まさになにがしかの、光を届けています。
多くの人が、老若男女問わず、みんなゴッホの絵の前で、感動を覚えているのです。
「芸術」と言いますけれど、ゴッホが生きていたら、今、このようにもてはやされている自分の作品に対して、どのように、思ったことでしょうね。
痛々しい自画像が放つ眼光から、何を受け取ればいいのか、今、考えてみるのも一つの方法かもしれません。
「芸術は長く、人生は短し」
こういうことわざを思わずにはいられません。

日々のことば「怠らず」

辻仁成 Art Gallery



日々のことば「怠らず」

きっと、ゴッホのような人は、「怠る」ことをせず、実直に、作品と向き合ったのだろうと思うわけです。
その「怠らず」ということばの意味を辞書で調べると、「何かを軽んじたり、おろそかにしたりせず、真剣に取り組むこと」と出てきます。
ぼくは子供のころ、思い返せば、父に「ひとなり、怠らず努力せよ」とよく言われたものです。
しかし、怠らず努力、と言いますが、なかなか出来ることではありません。

古代ギリシャのお医者さんに、ヒポクラテスという人がいました。
この人のことばで素晴らしいものがあります。
Art is long,Life is short.
訳すと「芸術は長く人生は短し」となります。
宇宙全体からしますと、人間の命など実に短いものなんですね。
しかし、ゴッホでも、ダビンチでも、すぐれた芸術作品の命はその作者の人生よりもうんと(比較にならないほどに)長いわけです。
世界がある限り、すぐれた芸術作品は半永久的に生き残るということを意味しています。
転じて、このことばは、道を究めるために努力を惜しむな、という教訓なのでもあります。
ヒポクラテスが言いたかったことを意訳しますと「怠らずに勉強をしなさい」ということだったようです。
「医学を習得するのに気が遠くなるような時間がかかるものだが、それに比べ人生は短く儚い、だからこそ、無駄なことに時間を割かず、今を一生懸命勉強のために費やしなさい」ということ・・・。
芸術に置き換えて彼は人に説いた、ということなんですね。
何かをやり遂げるためには、人生というものはあまりにも短すぎる。、だからこそ、今は努力をおしまないことだ、ということでしょう。
常に、怠らず、精進をする。
簡単ではありませんが、その怠らないことに命を傾ける人生、けっして侮れないです。だらだらしていても、何も始まりませんから、ということで、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「芸術は長く、人生は短し」

今日のごはん。
「とうもろこしごはん」

日々のことば「怠らず」

日々のことば「怠らず」

自分流×帝京大学

日々のことば「怠らず」

個展情報です。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。
この秋の作品は、これまでにない、新しい世界となります。その第一歩という感じです。

2026年、1月中旬から3月中旬まで、日動画廊パリにて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。

そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。