自分流・日々のことば
日々のことば「突破口」 Posted on 2025/08/08 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
実は、昨日の「日々のことば」で「あくまでもポジティブ」というぼくの生き方をご紹介させて頂きました。
猪突猛進な年少の友人S君が、10年も頑張っているのに会社がなかなか突破できずに苦悩している、と打ち明けられ、父ちゃんが「あくまでもポジティブ」ということを彼に話した、という内容でした。
S君、昨日の「日々こと」を読んだようで、7年ぶりくらいのLINEが飛び込んできたのです。
彼のこととはわからないように書いたつもりだったのですが、あっけなく見破られました。
「辻さんと久しぶりに話せてちょっと元気になりました。あと少しのところがまだ見えていませんが、少し視点をかえて生きてみたいと思います」
という前向きなメッセージだったので、安心をしました。
☆
うまくいかないのには、いくつかの理由があると思います。
それはきっと真面目に、あるいは一点突破を狙い過ぎ、あるいは真四角に、戦い過ぎるからかもしれません。
「退路を断って前進せよ」って、言っちゃいがちですが、それは戦略的に危ない挑戦になりかねないわけで、アーティストならまだしも、笑、会社経営の上で、「船を焼く」ということわざのように、退路を断って、挑むだけでは、うまくいかないこともあります。
※ 「船を焼く」というのは逃げる船を燃やしてしまい、退路を断つ、ということです。
船を焼いたら、沖に出ることさえできません。
☆
しかし、ちょっと針路を変える、考え方をずらす、というか、基軸をもう少し自由に持って挑むことも大事かもしれませんね。
ぼくはいつも、いくつかのレールを走らせ、苦しくなると違うレールに移り、そこを走るようにしてきました。
自分という列車はぶれずに走らせますが、レールを乗り換えることは自由なはずです。
窮地は必ずやってきますから、常に、主線と複線を持っておけば、心が病むことからは脱出できるわけです。
要は、人間なぜ負けるか、というと、自分で自分を追い込んで身動きがとれなくなるから、負ける。
つまり、自分に負けているんです。
勝つだけが勝利じゃないわけですが、まず、負けないことが大事で、そのためには、常に心を安定させておくための複線が必要になります。
S君に誤解してもらいたくないのは、いろいろやっとけ、ということじゃないんです。
希望複線を持っておけ、ということです。
「窮すれば通ず」
ということばがありますね。
人生には不思議な突破口が不意に出現することもあり、たとえば、ものごとがどうにもこうにも動かなくなった時に、まさに今のS君のような状況、10年も頑張ったのになかなか突破できない時に、思いがけない光が差すというか、活路が見える場合があります。
それを見逃さないこと。
こういうのを「窮すれば通ず」というんですが、S君には人一倍のガッツがあるので、今までの10年が無駄だとはぼくにはまったく思えません。
しかし、この10年の経験を活かしながら、少し違うものに、その経験をシフトさせる時、思わぬ成功が待っているんじゃないか、と思います。
マイナスしか見えないかもしれませんが、ちょっと自分をひいて、眺めてみてください。
思わぬところに突破口が隠れている場合があります。
それを見つけられれば、流れが変わるはずです。
☆
ぼくは何もかもがうまくいかなかった時代、「実は今が一番楽しい時じゃないか、チャンスなんじゃないか」と思って乗り切っていました。笑。
いまだ窮地が続いているので参考にはなりませんね。苦笑。
自分の創作物がだれにも理解されなかった時、何か、シフトをかえてみたら、この表現、動きがかわるんじゃないか、と思いつき、突破口を探したものです。
人生にはいくつもの突破口があると思います。
計算の苦手なぼくにビジネスのことはわかりません。
でも、ビジネスも人生も、最悪な時にこそ、大きなチャンスが隠れているような気がします。
それをどうやって探す?
S君、一度、ギアをチェンジしてみましょう。
違う坂道を登ってみましょう。
遠くの空は晴れています。
その先に、輝く地平線が出現することでしょう。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「窮すれば通ず」
今日のごはん。
「ノルマディ・サラダ蕎麦」
ということで、個展情報!!!
☆
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。ピカソもぶっ飛ばす勢いです。
☆
2026年、1月中旬から3月中旬まで、日動画廊パリにて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。
☆
そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
☟
posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。