自分流・日々のことば
日々のことば「夜」 Posted on 2025/08/14 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
若い頃、毎日のように締め切りがやって来ていたことがありました。
今は、そもそも引き受けないので、締め切りなんかほぼほぼありません。
とくに小説の連載なんか怖くて、もうできません。
でも、若気の至りというのでしょうか、来るもの拒まずの時代もあったんですね、連日、小説の締め切りがあった時代も・・・。
ライティングマシーンのように書いていた時代があったのですが、だいたい、作品は夜に仕上がるのです。
で、書いた直後というのは達成感が凄いから、怖いものがありません。おらァ、天才だー。
書いた勢いで送って、印刷されたものを読んで、自分の拙さに、あとで嘆くことになったわけです。とほほ。
☆
フランスにいいことばがあります。
La nuit porte conseil.
「夜は助言を運ぶ」というのが直訳になります。
すぐに原稿を送らないで、一晩頭を冷やしてから、送れ、という意味に解釈しておりました。
朝、すっきりとした頭で原稿を読み直すと、そりゃあ、ミスや欠点がよくわかるわけです。
感情的にならず、冷静さを取り戻してから、送った方がいいですね。メールとかも、言えると思います。
「La nuit porte conseil.(夜は助言を運ぶ)」
ですが、仏語辞典などを開いてみると、実際にはちょっと違った感じで使われているようでした。
たとえば、夜に悶々と悩んで、眠れなかった難問であろうと、朝になるとちゃんと解決策が見えてくるものだ。だから、ちょっと時間をおいて、考えんさい、といのが本当の意味なのだそうです。
なるほど、まさに、その通りですね。
いつも思うのですが、何にしましても、時間をかけることは大切だと思います。
勢いでやらないとならない場合ももちろんございますが、でも、絵でも小説でも人生でも、ちょっと時間をあけて、頭を冷やし、冷静になってから行動をしたときに、よりよい成果が出るというものです。
焦ってやって成果が出るものなんて、めったに、ないですよね。
「急いては事を仕損じる」
これ、日本語のことわざにもあります。
ぼくは苦しい時には、即ベッドへ直行し、ふて寝をします。そのまま寝てしまうことも多いです。
でも、寝ている間というか、夜の間に、なにがしかの解決策、もしくは、自分の方針を見つけていることもこれまた多いです。
夜は助言を運ぶ、ということかと思います。
「落ち着け、大丈夫だから、落ち着くんだ」
ということですね。落ち着きましょう!
明けない夜はない、
明日は明日の風が吹く、
まずは、ゆっくり休んで、頭と心を整理し、また、明日から頑張っていきましょうか。
はい、大丈夫です。
今日のひとこと。
「La nuit porte conseil.(夜は助言を運ぶ)」
今日のごはん。
「レモン焼き鳥ライス」
毎日の楽しみは、昼飯と夕食ですね。朝ごはんは食べませんが、近くのパン屋まで三四郎とパンを買いに行く帰り道、焼きたてのバゲットを齧るのが大好きです。
田舎暮らしですと、食べること以外に楽しみがないので、とにかく、毎回食事には気合いを入れております。
美味しい毎日、幸せですな~。
父ちゃん、料理が出来たことで人生が二倍楽しくてなりません。そこのお父様、ぜひ、料理、やってみてください。
人生が二倍楽しくなりますよ。
はい、ということで、辻仁成最新個展情報になります!
☆
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。
☆
2026年、1月中旬から3月中旬まで、「日動画廊パリ」にて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。
☆
辻仁成の美術サイトに、三越での写真が掲載されました。カメラマン、大野さんが撮影した、絵と対峙する、ぼくです。
☟
そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
☟
posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。