自分流・日々のことば
日々のことば「笑」 Posted on 2025/08/15 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
フランスは、今日、聖母マリアの日でした。
日本はお盆でしたが、フランスもこの時期、家族が集まり、一緒に過ごすわけです。
なんとなく、お盆っぽい時期ではあります。笑。
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今朝、パン屋で、隣人のミッシェルとばったり会いました。この人は、90歳ですが、いつも満面の笑みでぼくの腕を掴んでくれます。
「やあ、いい日だね」
「そうですね。ノルマンディらしい快晴です」
この人の何が素晴らしいかって、その笑顔。ぼくとわかると、口角が上がって、満面の笑みになります。
まァ、もちろん、真っ白ではないんですが、でも、自分の歯でしょうね、大きな歯が顔を出します。
この人が若いのは、いつもこうやって笑顔で生きてきたからだろう、と思いました。
自分から笑顔をしむけてくるというのか、ぼくだとわかった瞬間に、「さあ、笑え、心の底からこの瞬間を喜ぼう」という笑顔を浮かべてくるのです。
真似たくてもできない笑顔なんです。笑顔の達人ですね。
たまりません。
幸福しか、この人にはない、と思わされます。
いつか、写真を撮ってここにアップしたいと思うのですが、あんまりにも眩しい笑顔なものだから、つい、見とれてしまって、一度も笑顔の写真を撮れずじまいなんです。
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ぼくがバンドマンだった頃、一切笑うことのない若者でした。デビュー時の写真は暗い感じで、ひどいものでした。笑。
でも、最近は笑顔の写真ばっかりになりました。とくに、この10年、心がけて笑うようにしてきました。
ミッシェルじゃないけれど、自分から笑うと、幸福がやってきそうな気持ちになるからです。
だから、一人でも笑っています。
三四郎と散歩をするときも、だいたい、微笑んでいます。
朝陽をみたら微笑み、夕陽をみてもほほ笑んでいます。しかめっ面をしていると苦しかった日々しか思い出さないので、ふっきるために笑うように心がけているんです。
だんだん、笑顔が板についてきました。
バンドマンだった頃のぼくを知っている人は「明るくなったね」と言います。
そうなんですが、ちょっとだけ違います。
今、ぼくは笑顔で幸福を釣ろうとしているんですよ。
残り少ない人生ですから、幸せになりたいじゃないですか。
不幸と幸福、どっちかといったら、幸せになりたいです。
そのために笑顔をつくり、幸福をおびき寄せているというわけです。
「笑う門には福来る」
ということです。ミッシェルはぼくの心の師匠ですね。
「笑う門には福来る」ということばは真実だと思います。
四六時中、笑い声が絶えない家には、おのずと幸福が宿る、という意味ですよね。
ミッシェルのように常に朗らかに生きている人のところに、自然に幸せが集まって来る、ということなんです。
ある時、ミッシェルがこう言いました。
「辻さん、誰にだって、不幸は不意にやってくるもんだ。私も妻を亡くしたばかりだからね。でも、悲しいことや苦しいことがあっても、希望を失わず朗らかに生きていれば幸せというものは、見捨てないんだよ。ただし、笑顔のあるところにやってくる。だから、笑顔を大事にしなさい」
彼の家の庭で育ったトマトをおすそ分けしてもらった時に、笑顔の秘密をこっそり教えてもらいました。
なるほど・・・。
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「笑う門には福来る」
ということばの、門、の字に注目してください。
もん、と読むと家の門になってしまいますよね。でも、「かど」と読むと家族一門を指します。
辞典によると「門」とはもともと母屋の前庭のことだった、とか・・・。
前庭には、福の神の来訪を願う祝祭的空間の役割があったんですって、・・・そこから「笑う門」が生まれたんだ、と思えば、思わず微笑みを誘われませんか?
実に深く、いいことばです。
うちにも福の神に来てもらいたい・・・。
愛犬、三四郎の家の前庭に光が差していましたよ。
はい、ということで、今日も希望を持って精一杯生きたりましょう。
大丈夫ですよ。
今日のひとこと。
「笑う門には福来る」
今日のごはん。
「根菜と鶏ささみ肉の食べるスープ」
身体にいいものを、丁寧に作って食べることも、幸福をおびき寄せるいい手だと思います。笑。
美味しい、と思うと、自然と笑顔は出るものです。
笑顔の食事を心がけています。
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ということで、個展情報です!!!近づいてきましたよ。
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全22点の渾身作で行くよ。笑。
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辻仁成の美術サイトに、三越個展開催時の写真が掲載されました。カメラマン、大野さんが撮影した、絵と対峙する、ぼく。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。