自分流・日々のことば
日々のことば「鞘」 Posted on 2025/08/19 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
ロシアがウクライナに侵攻した日のテレビの映像、いまだによく覚えています。
ロシアの戦車大隊がキーウを目指してものすごく長い列をなし、ウクライナ領土へと攻め入ったあの日から、早いものですね、もう三年が過ぎるのですから・・・。
結局、キーウは陥落せず、長いこと、激しい戦闘が続いています。
超大国ロシアがウクライナを攻め落とせないことがだんだんわかってきてからもうずいぶんと歳月が流れました。
ウクライナが多少劣勢とはいえ、あの超大国ロシアに、ある意味で善戦しているのも事実です。
ロシアの政府は、2日でキーウを陥落させ、無条件降伏を勝ち取るつもりでしたが、そうはなりませんでした。
和平はまだまだ遠いのが現実で、おおぜいの若い兵士たちが亡くなりましたし、これからも亡くなっていくことでしょう。
そして、いまだ戦争は続いています。
アメリカが介入し、和平交渉が行われているようですが、領土問題もあり、そう簡単には解決しないのじゃないか、と思われます。
一日も早い戦争の終結を望むばかりです。
☆
さて、なぜ戦争がいつまでも終わらないのか、を端的に言い表していることばがあります。
「一度抜いた刀は鞘には戻せない」
です。
昔、プライドの高い武士はひとたび刀を抜くと、勝つまで、その刀を鞘に戻すことが出来ませんでした。
刀を抜くというのは、真剣勝負を挑むわけですから、お互いなかったことにはできなかった、ことから、このことばが生まれたわけです。
ロシアのプーチン大統領は、その刀を抜いてしまいました。
侵攻されたウクライナも抜きました。
こうなると、和平は簡単ではありません。
しかも、数日でウクライナを占領できると思っていたロシアは、100万人近い死傷者を出し、それでも、なかなか前進できずにいるわけです。
もはや、超大国のプライドがこの戦争を無かったこに出来ない段階に駒が進んでいるのが、現状です。
ロシアとウクライナとの関係は人間関係にも置き換えられますね。
本気で喧嘩をしてしまった相手とは、そう簡単に、もう和解はできないものです。
ですから、「一度抜いた刀は鞘には戻せない」は、問題が大きくなる前に、使われることが多いことばになります。
カッカした両者が刀を抜く前に、使われるのが通常です。
「一度抜いた刀は鞘には戻せないんだよ、だから、ここは早まらず冷静にならなければならない。我慢することも必要だし、無茶をして戦争になったら、お互いのためにならないからね」
しかし、ロシアはもはや、刀を戻せず、でも、国民の犠牲も多いので、落としどころで苦労しているわけです。
「どうやって、抜いた刀を鞘に戻すべきか」
アメリカも、西側諸国も、周辺国も、この一点を見守っています。
仲介に入ったトランプ大統領が、やや弱腰に見えることもありますが、それだけ、この戦争の終結がいかに難しいかを物語っています。
どうやって、両者の刀を鞘に戻せばいいのか、難問ですね。
戻せなかった場合、何が起こるのか、恐ろしい・・・。
似たようなことが、実は、人間関係の間にも存在します。
「覆水盆に返らず」
という類似的意味あいのことばがこれを端的に説明してくれます。
一度、こぼれた水は、もう盆の中には戻りません。
だから、はじめが肝心ということになります。
刀を抜く前に、まずは、ちょっと出口を考えてから行動しなけらばならない、という戒めです。
刀を鞘に戻す心の大きさを持って、生きることの大切さも、考慮して、これからを生きていくのがよろしいでしょう。
はい、ということで、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。
今日のひとこと。
「一度抜いた刀は鞘には戻せない」
今日のごはん。
「紀の川漬けとルピン」
※ ルピンはスペインのバーとかでビールと一緒に出される豆のしょっぱいおつまみ。紀の川漬けは、大根のつけものです。どっちも、のんべーには、たまりません。
ごはんじゃないって? あはは。
ということで、個展情報です!!!
パリの個展、近づいてきましたよ。
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。
なるべく、個展会場に顔を出そうと思っています。
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辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。
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そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。