自分流・日々のことば

日々のことば「残」 Posted on 2025/08/24 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
フランスのフリマはかなり面白いです。
ぼくが暮らす小さな村でも定期的にフリマが開催されています。
それが朝の4時から場所とり合戦が始まり、夜の9時まで道路を封鎖して行う本格的なもので、朝の7時には、近隣に暮らすおじいさん、おばあさん、家族連れなどで大賑わいになるんですよ。
で、だれがこんなものを買うのか、と思うようなものばかりが並びます。
たとえば「靴片方」とか、「昔の週刊誌」とか、「欠けたお皿」とか、「壊れた人形」とか、「刃がぼろぼろのスキー靴」とか、「誰がはいたかわからない下着」とか、「ぜったいパンクしているに違いないタイヤ」とか、挙げれば枚挙に暇がありません・・・。
実に恐ろしい品々なんです。
マジで、誰が買うの?
いやいや、ところが、大盛況なんですから、これが不思議。

下の写真のパンクしているに違いないタイヤを出品したのは、この「日々のことば」でもすでにおなじみ、90歳の翁、ミッシェルさんなのでした。
「ミッシェル~、こんなタイヤ、売れるの?」
「つっじー、売れるかどうか、出さないとわからないよ」
ミッシェルは娘夫婦と3人で、フリマ店を出していました。
「ズロースみたいな変なずぼん、3ユーロ」「古い新聞、1ユーロ」「タイヤ、2ユーロ」・・・大丈夫かな。
「でも、毎年、100ユーロくらい稼ぐんだよ」
「マジ?」
「フランスには、一つのドアが閉まると違うドアがあく(Lorsqu’une porte se ferme, il y en a une qui s’ouvre)、という格言があるんだ」
「へー、あ、おお~、日本にもありますね」
ということで、みなさん、このことば、ご存じですよね。
「捨てる神あれば拾う神あり」

日々のことば「残」

日々のことば「残」

日々のことば「残」

※ 娘さんに頼んで、念願のミッシェルとの2ショット撮影したんですが、満面の笑顔で、と言っているのに、なんか、どこかの国の王様みたいな顔になっていますね。かっこつけてるー。あはは。



こういうフリマのことを仏語では、「ヴィッド・グルニエ(Vide grenier)」と言います。
訳すと、「グルニエを空にする」。
フランスの屋根裏部屋のことをグルニエと言いまして、そこを空にする、という意味になります。
要はガレージセールのことですね。
フランス人は、しかし、こういうお宝さがしのよなことが大好きで、小さな村なのに、周辺の村からもたくさんの人が集まって来て、歩けないくらい、大賑わいになるのです。
普段は、牛が寝そべっているような場所なのに・・・。
そして、絶対にいらないようなものをみんな抱えて持って帰るんです。面白い風習ですよね。
でも、確かに掘り出し物があります。
実はぼく、コニャックのグラスを6個も買っちゃいました。もう、使わないから売るというんです。
「そんなに安くていいの?」
「ええんじゃよ。グルニエを空にするんだ」
ということで、もうお酒を飲まないミッシェルにとっては捨てるようなものなんだけれど、まだお酒がないと生きてはいけないぼくにはお宝のコニャックグラスなのでした。
それを、6個全部ゲット~。
いくらだと思いますか?
全部で、だいたい、200円なんですから、お宝・・・。
「残り物には福がある」
とはこのことです。
幸せになりました。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。

日々のことば「残」

日々のことば「残」

日々のことば「残」

今日のひとこと。
「残り物には福がある」

自分流×帝京大学



今日のごはん。
「エビフライ定食」

日々のことば「残」

ということで、冷凍食品の「ピカール」さんで買った海老を解凍し、衣をつけて、頭ごとフライにしてみました。もちろん、ポテトサラダ(じゃがいも、ハム、紫玉ねぎ)も手作りです。最高でしたよ。残った海老フライは、明日、サンドイッチにします。

ということで、個展情報です!!!
近づいてきましたよ。今は個展開催がぼくの希望です。笑顔でお会いしましょう。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。

辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。

辻仁成 Art Gallery

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。