自分流・日々のことば
日々のことば「職」 Posted on 2025/08/29 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
人間は生きるためになんらかの仕事をしないとなりません。
そもそも「働く」ってなんでしょうね。
昨日、ぼくのアトリエの裏のイブリンさんと垣根越しに少しお話しました。すると、
「仕事がたくさんで、疲れたわ」
と言うのです。
彼女の仕事は、庭の手入れ、とかです。
「もうすぐ、88歳なのに、忙しいのよ。たくさん、やるべき仕事があるんだから」
この場合の仕事とは、お金を稼ぐ目的の仕事ではありません。88歳にもなると、身体をつかって、何かのために一生懸命動くことは立派な仕事になるわけです。
ご主人をなくして、20年、ずっと一人暮らしなんです。
そこで聞いてみました。
「仕事を辞めたいと思ったことはないの? だって、大変ですよね。もう88歳なんだから、他の人に頼むことだってできるでしょうし」
すると、イブリンは笑いながら肩をすくめ、
「あなたね、死ぬまで仕事があるから生きている意味があるんですよ。疲れるけれど、私にはそれが生き甲斐なのよ」
ですね、ぼうっと生きていても一生、朝から晩まで庭仕事をしているのも一生です。
その直後、若い友だちのA君から、「天職が何かわからず、悩んでいます」と連絡がきました。
ぼくは、こうメッセージを打ちました。
「ぼくもね、実はまだ、天職が何かわかってないんだ。現在、探している最中なんだよ」
「絵や、小説ではないんですか?」
「かもしれないけれど、もうちょっと生きてみないとわからない。畑仕事とかがむいているかもしれないし」
笑。
でも、実際、そうなんですよね。
一生が終わるまで、正確に言うと、終わりそうになるまで、自分の天職はわからないと思って生きています。
古代ギリシャのアリストテレスが言いました。
「世の中が必要としているものと、君の才能が交わっているところに天職があるんだよ」
なるほどね。さすが、いいこと言いますね。
「でも、辻さん、ぼくには何も才能がないし、世間もぼくを必要としていません」
A君みたいにことばを齧って、そう思う人も多いでしょうし、アリストテレスの意見に「そんな世の中単純じゃないよ」と思う人も多いでしょう。
でも、ちょっと待ってください。
一つ、考え方を変えてみましょう。
「世の中が必要としているもの」
ものすごいことを考えてませんか? スーパーマンになってくれ、なんて、世の中、だれも思っていません。世間には、本当に無限の「必要」があるんですよ。その一つです。
そして、
「君の才能」
これも、才能、という言い方で誤解をされがちです。ざっくりと言えば、「自分にやれること」という意味なんです。
もう少し、深めると、
「楽しんでやれること」
かな。
だから、アリストテレスのことばを現代訳するならば、
「自分が出来ることを最大限活用して、なんらか世の中に役立つことをすることができる中で、次第にそれが君の真実の仕事になっていくんじゃないかね」
となるんじゃないですか?
☆
ぼくはアリストテレスの詩的なことばをベースに抱きながらも、でも、天職って、長い時間をかけて、ああでもないこうでもない、と、あるいは転職なんかを繰り返して最終的に、これが俺の天職だったんじゃないか、と気づくものかな、と思っています。
A君はまだ40歳ですから、ここからですよね。
ぼくだって、この年で、まだ、何が天職か、わかっていません。
だって辞書には「天から授かった職業」とあります。
人間の数、多いですからね、天も忙しいでしょうから、自分で探すのがいいと思いますよ。
「生き甲斐を感じることが出来る仕事こそ天職なり」
これがぼくの今日のメッセージになります。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。
今日のひとこと。
「生き甲斐を感じることが出来る仕事こそ天職なり」
今日のごはん。
「茄子と豚ひき肉の辛みうどん」
ぼくは生まれて一度もお給料というものを貰ったことがありません。バンド時代は、アドバンスと呼ばれる借金スタイルで月々、お金(5万円)を頂いていました。なんとなく、騙されていたのかな、とも思いますが、ま、それも青春です。笑。その経験がなければ今の自分もないんだな、と思うと、勉強させてもらいながら、お金を貰えていたんだ、と感謝さえおきます。
☆
ということで、いろいろやってなんとか生きています。将来は、何を売る人になるのか、わかりませんね。死ぬまで、わかりません。でも、天職があるとしたら、それは「辻仁成」かな。
あはは。
☆
ということで、フランス個展情報です!!!
近づいてきましたよ。今は、ここだけが、ぼくの希望です。笑顔でお会いしましょう。
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。
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辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。