自分流・日々のことば

日々のことば「人生」 Posted on 2025/09/02 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
フランスで生きるようになって、あと、1,2年で四半世紀にもなろうとしています。
実はこんなに長くフランスにいるつもりもなかったので、自分でもびっくりしています。
「なんでフランスなの?」
と日本人にも、フランス人にも、聞かれますが、ぼくもよくわかっていません。
でも、25年もここにいるのですから、嫌じゃない、というのは確かなのだと思います。

フランス人の考え方がぼくの生き方とすごくマッチしている、というのはあるでしょう。
そのことをひとことで表していることばがあります。すでに、「日々のことば」でもう何度も登場し続けてきたことばです。
「C’est la vie.(それが人生というものだ)」
聞いたことがあるでしょう、セ・ラヴィ、と発音します。
フランス人は、事故にあっても、人が死んでも、破産しても、誰かと揉めても、セ・ラヴィでひとまず、終わらせます。
最初は、ものすごく、つっけんどんに聞こえたものです。誰もかばってくれないし、誰も一緒に泣き叫んでくれないんですからね。
肩をすくめて、セ・ラヴィ、とクールに呟くだけ。
でも、たとえば、深刻な問題を抱えていても、セ・ラヴィ、と言われると、人生なんてそんなものだ、また頑張るしかないな、と気持ちを切り替えることが出来ます。
下手に同情されて泣かれても面倒くさい。
そういうことをフランス人はしません。突き放すわけではなく、彼ら一流の同情の仕方なんです。
真剣なまなざしで、セ・ラヴィ、と言われると、「これはもう、どうにもならないんだ、これが人生だ、受け入れるしかないんだ」とそのひとことが、神様の声のように聞こえてくるから不思議です。
人生ですから、そこから再び立ち直らないとならない、という強いメッセージも含んでいるので、そのことばを呟いた人の少し力のこもった視線が、逆に、余計なお世話のない、真摯なサジェスチョンとなって、ぼくを励ましてくれたりするわけです。
そういう距離感のある哲学が、「C’est la vie.」の中にたくさん含まれているように思います。

日々のことば「人生」



もう一つ、フランスで暮らしだして、非常にびっくりしたことがあります。
フランス人は、めったに、「ごめんなさい」とか「申し訳ない」ということばを口にしません。
謝罪した方が負け、みたいなものを持っているせいもあるでしょう。
日本だったら、ちょっと肩がぶつかっただけで、「ごめんさない」と言いますが、フランス人は、相当に自分に非が無いかぎり「Désolé(ごめんなさい)」を使いません。
しかし、人が死んだ時には必ず、みんなこのことばを口にするのです。
なんで、ここで「Désolé」なんだ、と思って、びっくりしたことがあります。
普段、謝らない人たちが、誰かが死んだ時なんかに、「ごめんなさい」と真剣な目で言うのですから、・・・。
でも、逆に、そこで普段謝らない人たちが、ごめんなさい、と深く切り込んで来ることで、癒されるのも事実なのです。
セ・ラヴィは、意外と自分にむけて呟いても効果てきめんですから、どうぞ、ご自由にお使いください。無料です。
「C’est la vie.」と「Désolé」のあいだにあるものが、フランス、なのかもしれません。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「セ・ラヴィ」

自分流×帝京大学

日々のことば「人生」



今日のごはん。
「ひとなりさんのおいなりさん」

日々のことば「人生」

パリの日本食材スーパーで売っている「いなりの皮」、この中に、生生姜とガリと胡麻と紫蘇の入った酢飯を詰め込んだ、辻家秘伝の「ひとなりさんのおいなりさん」なんですが、一合の白飯に対し、30mlの米酢、4gの塩、8gの砂糖で作りますよ。砂糖は増やしてもいいです。そこに、刻んだ生生姜とガリと胡麻と紫蘇を散らして、にぎにぎ。最高ですぞ!

いよいよパリの個展が近づいてまいりました。来月じゃないか!!! よっしゃー。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
だいたい、午後の14時から、18時くらいまで開画廊いたします。みんな長く働かないので、午後、お越しください。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23~24点の渾身作で行くよ。笑。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。
一部の作品は、辻仁成の美術サイトで確認できますので、どうぞ、御覧ください。

辻仁成 Art Gallery

日々のことば「人生」

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。