自分流・日々のことば

日々のことば「夢」 Posted on 2025/09/08 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
今日、ふと、こんなことばが頭をよぎったのです。
「夢は見るもの」
部屋の掃除をしていたのですが、掃除機をとめて、どういうことだろう、としばらくぼんやりと考えこんでしまいました。
で、ああ、なるほどね、と思い至ったのです。
「夢は見るからよいので、実現させようと思っちゃいけないのだ」
つまり、何か大きな成果を夢見て、頑張っているんですが、思えば、夢を見ているあいだが幸せなんだよね、ということです。
もしかすると、叶えばラッキーくらいがいいかな。

昔、ソニーレコードでプロデューサーを任されたことが一時期ありました。
そのレーベルが解散をすることになった時、当時の社長さんが、成果を出せなかったぼくにむかって、笑顔で、
「たくさん、夢を見せてもらえた、ありがとう」
と言ってくれたのです。
ぼくは成果が出せなくて、申し訳ないと思っていたのですけれど、逆にそんな風に言ってもらえて、かっこいいな、この大人、と思ったのでした。
たぶん、そのことを、ぼくはぼくで、今でも心の支えにしているような気がします。
「夢は見るものだ。叶えることが大事じゃない。見ることが大事なんだ」
そらみみでしょうか、聞こえてきますね。

日々のことば「夢」



で、その方はもうずいぶんと前に身体を壊して、第一線を退かれたのですが、人づてにメアドを教えてもらい、メールをしたら、通じて、去年のぼくのラストライブに来てくださいました。
まるさん、という方です。
先月、お誕生日だったので、おめでとうございます、と送ったら、長いお返事が届きました。
昔は、俳優のような素敵な紳士でしたが、今は、老いの中で、日々、夢と闘っているのだそうです。
ライブの時も途中で帰られた、とかで、だから、最近、どんな顔をされているのか、わかりません。
でも、文面からは、お元気そうで、
「そうか、君は今、絵を描いているのか、そりゃあ、がんばって次の個展にはいかないとならないね」
とおっしゃって、くださいました。
そうそう、成果が全く出せなかったわけじゃなかった。そのレーベルの時代、ZOOがヒットをしたんでした。まあまあ、健闘したんじゃないかな、と思います。
しかし、ぼくは、まるさんに、「夢を見させてくれてありがとう」と言われ、そういう言い方が出来る大人に会えたことが、ぼくの今を構成する一部になっている、のだな、と気づいたわけです。個人的には忘れられない思い出です。
今度は、ぼくがその大人ぶりを後輩たちにみせないといけないかな、と思っている次第です。
つまりは、夢を見ること、見続けること、が大事だということでしょう、それを叶えることよりも、まずは、生きる先の夢、大事ですね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫ですよ。

今日のひとこと。
「夢は見るもの」



今日のごはん。
「父ちゃんのまかないのスペアリブ」

日々のことば「夢」

※ 下のは、サツマイモとじゃがいもの付け合わせ。

日々のことば「夢」

個展で発売する2025年度の全作品が入ったカタログを事務所のスタッフと制作中でして、撮影し、デザインをし、昨日、印刷会社に提出をしたところです。デザイナーさんや写真家さんなどが事務所に集まり、れいによって、クラブ活動的な作業が続いたので、父ちゃん的にはまかない料理を拵えてあげることに。で、若者たちに、父ちゃんのスペアリブ、大好評でしたよ。15区に、Kマートというスーパーがあり、2キロくらいのスペアリブ肉が3ユーロ50だったんです(500円くらい)。驚愕の値段! 骨付き豚肉ですね、これに味をつけて、オーブンで野菜と一緒に焼いたわけです。あっという間に、完食でした。
カタログは「HITONARI TSUJI WORKS 2025」となります。毎年、出していこうと計画中で、まずは、10日に、見本が出来、そのあと、限定で刷ります。お楽しみに。


パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
だいたい、午後の14時から、18時くらいまで開画廊いたします。みんな長く働かないので、午後、お越しください。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23~24点の渾身作で行くよ。笑。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。

日々のことば「夢」

辻仁成 Art Gallery

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

▷記事一覧

Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。