自分流・日々のことば

日々のことば「度」 Posted on 2025/08/20 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
ぼくはいつも極端な人間でありました。
今も、たぶん、そうだと思います。
そのせいで、攻撃を受けることも多かったですし、集団的ないじめにもよくあいました。
自説を唱えすぎると災い多し、という感じでしたね。
でも、今の自分はもうこの生き方を変えることが出来ませんので、あまりぼくの言動は参考にならない、ということをいまさらですが、申しあげておきます。笑。
昔、父親によくそのことを注意されました。
「ヒトナリ、お前はなんでもかんでもやり過ぎてしまう。そういう度を越した生き方だと、集団の中でうまくやれなくなるぞ」
まったく、その通りでした。
ある日、中学生の頃のことですが、考え方の違う集団にぼこぼこにされたことあったのです。ぼこぼこです。
顔にあざが出るくらい殴られたので、父がぼくに言ったわけです。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」
これは「なんでもかんでもやり過ぎることは、不足しているのと同じで、よくはない。過不足なく、ほどほどがいいのだ」という戒めです。
古代中国の思想家で儒教の創始者、孔子のことばですね。
「中庸(ちゅうよう)」を説いたわけです。
「中庸」とは、「偏りがなく中立的である」こと。
単純に中立的であることがいいと言ってるわけじゃなく、道徳や倫理的観点から注目し、調和のとれた過不足のない状態が良い、と説いています。
なんでも極端にやってしまうぼくには耳の痛いことばでした。
調和、苦手だったもので・・・。
自説を曲げないので、ぼこぼこ、になっておりました。

日々のことば「度」

日々のことば「度」



孔子と言えば、「中庸」という生き方の始祖みたいな人です。
彼が説いたことばに、
「中庸の徳たるや、それ至るかな」
というのがあります。
中庸という考え方が、いわゆる徳の最高指標であるとうったえているんですよね。
偏った考え、思想に囚われず、常に節度を守って行動することが重要であると孔子は申しているわけです。
やっぱ、耳が痛いことばですね。
そこから、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」が生まれたわけです。

つねに度を越して生きているぼくという人間は、じゃあ、ダメということですかね。
孔子は中庸を通して何を人々に説こうとしたのでしょう。
薬も過ぎれば毒となる、というのはわかりますが・・・。
たしかに、残り時間が少なくなってきたぼくにとって、この「中庸」という思想は響きます。
しかし、完全に納得もできません。
極端を避け穏当であることを指す「中庸」ですが、この「ほど良い感」というのも、実は人によるのじゃないか、とぼくはちょっと反論したい気持ちにかられます。
孔子に逆らうつもりはないですが、ぼくは度を越してもいいと思っている人間です。
ただ、弁えて結論を見極めることが大事だと思うのです。
人生の着地の仕方は人の数だけあるでしょう。
全員が中庸であることを目指す必要もないでしょう。
そして、その出口は出るまでわからないのが人生というものです。
孔子の「論語」は素晴らしい書ですが、時代は変化しています。この「中庸」が多くの人の心の癒しになるのはわかります。
でも、人が荒野へ踏み出し、歩いたところに道が出来るのも事実です。
中国の文学者・思想家であった魯迅の『故郷』の最後の文章に
「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になる」
があります。
道を作るには、やはり、踏み出す、つまり、度を超える必要がありますね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。

今日のひとこと。
「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になる」

自分流×帝京大学

日々のことば「度」



今日のごはん。
「カフェで食べたラム肉のロースト」

日々のことば「度」

今日は家事にも疲れまして、カフェ飯を頂きました。ラムをフランス人はよく食べるので、ぼくも好きになりました。これはローストされたラム肉ですが、やはり、自分が作るものとはぜんぜん違って、美味いですな~。ただ、ちょっと胸やけがおきました。普段、個人的に油をあまり使わない上に、この料理、ラムの脂が多くて・・・過ぎたるは猶及ばざるが如し、でございます。

ということで、個展情報です!!!
近づいてきましたよ。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。

辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。

辻仁成 Art Gallery

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。