自分流・日々のことば
日々のことば「落ち目」 Posted on 2025/10/26 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
人間というのは、うまくいっている時には、どこからともなく人が集まってきますが、調子がよくなくなると、人間というのは現金ですからね、すっといなくなったりします。
「金の切れ目が縁の切れ目」
と言いますでしょ?
小生、そういう経験だけはけっこうありまして、みんな必死で生きているんだな、と苦笑したこと、一度や二度ではございません。
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なので、最近は、損得で仕事をするようなものを醸し出す人は、友だちとは思わないようになりました。
これは、その方が後々、傷つきませんから、自己防衛の良策となります。
ま、でも、仕事がうまくいかなかったり、お金が無くなるような場面というのは生きていれば結構ございますので、小生はそういう時、必ず自分に言い聞かせることばを常日頃携帯しておくことにしてきました。
今日はそれをご紹介したいと思うのです。
「人は落ち目が大事」
というものです。
凄い言葉ですね。笑。
類似語に「人は落ち目の志」と言うのもございますが、要は、逆境に立った時にこそ人間としての真価が問われる、と言う意味なんです。
それが転じて、苦境に陥った友人にこそ真っ先に手を差し伸べよ、という意味もあります。
自分が一番どん底にいた時に、大丈夫かい、と言われることほど響くことはないですからね。
そういう人は間違いなく、友だちです。

で、「人は落ち目が大事」なんですが、小生もご存じのように、人生波乱万丈の連続でしたから、凄くいい時期もありましたが、ものすごく辛い時期もありました。
どん底、何度か経験しています。
まさに、こういうものは交互にやって来るものなんです。
でも、いい時って長続きはしませんし、必ず足元をすくわれて底辺を味うことになる場合が多かったです。
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最近は、警戒をするようになったので、「君子危うきに近寄らず」の精神で、上手に悪い方向から回避することが出来るようになりました。
若い頃は、それが出来ず、自惚れておりましたねー。
なので、あゝ、こりゃどん底だな、と思う時は、逆に、「人は落ち目が大事」と自分に言い聞かせ、逆境を乗り越えていたように思います。
そして、逆境を乗り越える一番の方法は、人に頼らず自分を信じてコツコツやること、に限るというわけです。
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「流れる水は腐らず」
ということばもありますが、常日頃から生き生きと活動をしていると、腐敗とか停滞は無縁になるよ、ということです。
流れる水でいることで、落ち目も成功も、常に流れていくものだということを悟ることが出来ます。
これこそ、真理、であります。
永遠にあるのは今日だけですから、今を一生懸命生きることで、道はおのずと開ける、ということなんです。
だから、今日も腐らず、はい、精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

辻仁成、パリ・個展情報。
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2026年、1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、8点ほどを出展させてもらいます。
2026年、11月ごろに、どうやら、リオン市での個展が決まりそうです。決まるかな? 笑。詳しくはまたご報告させて頂きます。

posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



