自分流・日々のことば
日々のことば、All’s well Posted on 2025/12/28 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
何度か、その昔、ロンドンのシェークスピア劇場にお芝居を見に行ったことがありました。
シェークスピアの戯曲「終わり良ければ総て良し」というのがあるんですが、この考え方が好きでしてね、シェークスピアを読むようになりまして・・・。(もっとも、戯曲はよくわからなくて、彼については何も語れませんが・・・、笑)
でも、この「終わり良ければ総て良し」という考え方には、ずっと励まされ、心を動かされ続けてきました。
「最初が肝心」ともよく言われたので、ぼくもまじめにコツコツやっていた時期もあったんですが、何せ短気でして、基礎ばっかりやって何も出来ずに終わることも多く、性格でしょうね、たとえば日記とか、三日坊主ばっかりで、先に進まないんですわ。ということで、習うことが嫌になった時期もあったんです。「習うより慣れよ」という言葉とか、まさにどんぴしゃで、ある程度掴んだら、実践に出た方がいいんじゃないかって、それで小説とか見切り発車して書き始めたりしたものなんですが、でも、思うようにいかないこともあって、どっちが正しいのか、正直、わからない青春時代を過ごしていたわけです。そんなある日、辻青年はシェークスピアの言葉「終わり良ければ総て良し」に出会っちゃうんですよね。
人生は波乱万丈だけれど、最後の最後、辞世の句とかで、まあまあだったかな、と言えたら、最高だなァと思うようになります。「大器晩成」ってことば、いいですよね。最初からスターの人って、まわりに多くて、それに比べ自分は何をやっても中途半端で、ダメだったんです。でも、やらないより、やった方がいいと信じて、頑張って来たんですね。シェークスピアの言葉を信じて・・・。終わり良ければ総て良しじゃん、まだ結果は分からないよね、安心するな、でも、諦めるなって。きっと、ぼくはそういう人生を今、生きているんだと思います。だから、最後は、ぜったい思ったところに辿り着いて見せるぞ、今はこんなんだけれどね、見といてね、と・・・。あはは、今をごまかすための言い訳のようですが、でも、人生って、長いスパンで結果を出すものじゃないでしょうか。だとすると、最後まで分からない、ということにもなると思うです。

「終わり良ければ総て良し」を英語にすると、
「All’s well that ends well」
となります。
人生は長い。その長い人生の途中で様々な試練、難問、トラブルに見舞われても、最終的な結果が良ければそれでいいんだよ、という教えです。
実に、後味のいい言葉じゃないですか。楽観的だし、何よりも、寛容です。
人生そのものを許されたような言葉だし、今結果を急ぐ必要はない、ということでしょうね。
類義語に「勝てば官軍」とか「結果がすべて」というのがありますが、これらは、結果主義なんだけれど、シェークスピアはそうは言ってないんですよ。ダメだとしても、そのすべてにおいて、人生というものは、含まれるのだから、結果がダメでも、最終的に自分がOKだと思えるなら、最後の最後に、これでよかったかな、と思えたならそれでいいんだよね、って、あゝ、なんて寛大なんでしょう。
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だからこそ、今を怠けないけないですし、諦める必要もない、ということなんです。
コツコツやりましょう。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

辻仁成展覧会情報
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2026年の1月、パリの日動画廊で開催されるグループ展に参加します。
1月15日から3月7日まで。結局、11作品の展示となりました。フランス人巨匠も参加するグループ展だそうです。
GALERIE NICHIDO paris
61, Faubourg Saint-Honoré
75008 Paris
Open hours: Tuesday to Saturday
from 10:30 to 13:00 – 14:00 to 19:00
Tél. : 01 42 66 62 86
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それから、8月前半に一週間程度、東京で個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「鏡花水月」です。(予定)
タイトルは突然かわることがございますので、ご注意ください。
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そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催予定しています。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!
posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



