自分流・日々のことば
日々のことば、「やらないよりはまし」 Posted on 2026/02/16 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
フランスに渡って、25年ほどが過ぎましたが、先日、知り合いの画廊でスタージュをしている台湾人の青年LEE君が、流暢なフランス語をしゃべっているので、パリに来てどのくらいなの、と聞いたところ、半年、だというのです。
半年で、こんなにペラペラなのに、25年もいるぼくはその50倍も滞仏しているというのに、彼の半分もしゃべることが出来ないって、いったい、どういうことなの、とやる気を喪失してしまいました。
ちょうど、秋に、日仏の文学イベントがあるので、まあ、自分が言いたいことくらいは通訳さんに頼らないで、自分の言葉で伝えたいと思うじゃないですか?
でもその熱意もLEE君の仏語を前にしてあっけなく、崩れ去ってしまいました。
でも、やらなければいつまでもこのままだ、と自分を戒めまして、その夜から、ぼくは再び単語帳と睨めっこの猛勉強をはじめたのです。
言語って、地道に勝るものはないですよね。そうなんです。
ぼくのようなアーティストって、会社とか組織に入ってないから、自分の力でのし上がっていくしかない!あはは。
自力で生きるしかないのが、アーティスト道なんです。フランスで頑張る父ちゃんにとって仏語を習得することは、この国で新しいチャンスを掴むことに繋がるので、がんばらないとなりません。
やっぱり、生きている言葉が、大切です。学校で学ぶ文法も、結局、路上で通じないと意味がないわけです。偉い日本の仏語の先生が、仏語が通じなくて泣いていたことがありますが、それは生きた仏語を知らないから、つまり、フランス人の社会でもまれてないからです。ぼくは少なくとも、若いミュージシャンたちとの交流、しかも自分のバンドメンバーもみんなフランス語人、画廊の人たちも、文学者たちも、翻訳者もみんなフランス語人なので、生きている感覚を学ぶことが出来ているという自負はあります。自負だけですが、・・・えへへ。

ということで今日もフランスのことわざから、学んでみましょう。
頑張る知人に、仏語のやる気の出る言葉を教えてあげましたよ。
“Mieux vaut tard que jamais.”
これは、直訳すると、多少遅れたとしてもね、やらないよりはましだよ、という意味になります。
とにかく行動しなけりゃなにも結果にはつながらないという教えですが、フランス人らしいことばでぼくはよく使います。
日本にも似たような感覚の言葉がありますね、逆説的な励ましの言葉になりますが、おわかりですか?
「善は急げ」
です。笑。
☆
もう一つあります。
“Qui ne risque rien n’a rien.”
直訳すると、何もリスクをおかさないものは、何も手に入れることができない、という感じになります。
日本にも似たようなことわざがありますよね。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
とか
「蒔かぬ種は生えぬ」
です。
世界共通の教えなんですな。
おお、やる気が出てきました。もうちょっと勉強してからご飯にしますよ。
えいえいおー。
がんばれー。
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今日のことば
「Mieux vaut tard que jamais」
今日のごはん
「パリのちらし寿司」


posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。


