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自分流塾「フランスのマダムから学んだ我慢をしない生き方」 Posted on 2024/02/26 辻 仁成 作家 パリ

渡仏した22年前、まず、驚いたのがフランスの女性たち、とくに、パリジェンヌたちの「生き方」であった。
我慢はしないし、はっきりと発言するし、とにかく自信があるし、ただ、その自信がどこからきているものかわからないのだけれど、妥協とか、折れるということもないし、誰にも気を使わないから、それでいいのか、と思うこともあっただが、結局、自分の人生なのだから、自分が中心で何が悪いのというスタンスがあって、だから、ちょっと近づき難く、下手に声をかけると怒られそうで、こういう人たちだから社会でも地位がけっこう高くて、会社の経営者の数は男性に負けないくらいいて、女性だから、とか言おうものなら、その次の瞬間に社会の外側に放り投げられそうな感じになる、何だろう、この強さ、と驚き、思えば慣れるまでに22年もの歳月が必要だったような気がする。
よく日本女性を褒める言葉とされる「おしとやか」というようなものを前面に出して生きている人には会ったことがない。
パリジャンたちの方が、柔和で、おしとやかではもちろんないが、気を利かせてくれる人が多かった。
最初に断っておかないとならないが、これはパリジェンヌへの悪口ではなく、男とか女とかジェンダーの違いで人間を語りたくはないが、日本では昔から男女の差が如実な社会だったために、それがほぼないフランスで、社会における女性の役割がこんなに違うのはなぜなんだろう、と思ったことにはじまる。

自分流塾「フランスのマダムから学んだ我慢をしない生き方」



とにかく、大企業でも幹部は女性、社長も女性が当たり前で、政治家も半分くらいは女性が仕切っているので、今は、それが当たり前、と思うようになったけれど、なぜ、日本の政治家はおじいさんばかりなの、と不思議に思う方の人間になった。
たぶん、女性の発言権が強いからだろうけれど、女性がはっきりとものをいうことが大事だと教育されてきたし、それを受け入れる社会があったからなのだろう、と思う。
声の出し方が、まず、違って、とにかく、パリジェンヌたちは低い声で話すことを大切にしている印象がある。
「日本に留学していた時に、お茶くみの仕事をまず覚えないとならなくて、その日に、その会社で働くのをやめたわ」という現在、人材派遣会社社長のママ友が笑いながら言ったのが、強烈だった。
「お茶くみをはなから女性の仕事」と決めつけてくる社会で、女性が自由になれるとは思わない、と彼女は40年前の日本で感じたのだ、と言った。
とにかく、フランスのマダムたちは強い。別の旅行代理店の社長をやっていた、アリスは、50年前、日本の仕事仲間に性差を批判されたので、お茶をかけてやったわ、そして、何が間違えているかを、徹底的に教えたあげたのよ、と、笑いながら告げたママ友もいる。

自分流塾「フランスのマダムから学んだ我慢をしない生き方」



こういうママ友たちばかりだけれど、よく観察をすると、わかることがある。
まず、女だから我慢しろ、というような強制に一番敏感に生きているし、そのことでは絶対に妥協をしないし、我慢もしない。
とにかく、強いのだ。
ぼくも22年もここで生きているので、仕事でもめた女性もいる。
力にもなってくれるが、敵に回すと怖い、存在でもある。
あと、鉄の女が多い。
子育てをしながら経営者でいる人の率も高い。大きなレストランチェーン店を抱えながら、独身で、49歳で出産をし、一人で、子供を育てている友人がいる。その子のお父さんのことは一度も聞いたことがない。
そこは向こうが言わないのだから、訊く必要も、想像をすることもない。ぼくのオランピア公演を見に来て、その翌月、出産をした。レストランは連日大盛況の高級店だけれど、出産してからも、子育てをやりながら、(お店の前に引っ越してきた)、店に立つ日は少し減ったが、自分の店を裏側でしっかりコントロールしている。女性が6割の会社で、彼女の右腕も女性ではあるが、いつ行っても対応も味も実に素晴らしい。行動力が半端ないのだ。仕事続けるの、と野暮なことをきいちゃいけない。
出産は病気じゃないでしょ、と何人ものフランス人に、怒られた。
それに、夫がいる家庭の場合、PTAなどに来るのは、そもそも、半分が男性なのだ。
会社を休んでみなさん来るし、それが優先される社会でもある。
彼らからすると、当たり前、なのだ。男女の役割がやはり、日仏では違うな、とぼくは思ったことがある。
とはいえ、まだ女性の大統領は出現していないが、近々、実現しそうな感じ。欧州各国は女性の首相はふつうに存在していて、もはや珍しいことではない。
女性だからといって、政治や経営の蚊帳の外に置かれることはないし、それを許さない社会がある。その前に、女性たちが、実に強く社会とアクセプトしている、という土壌がある。
「女子力が高い」などと自らを蔑視する言葉を使うマダムはいない。

自分流塾「フランスのマダムから学んだ我慢をしない生き方」



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posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。