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自分流塾「苦しい時は楽しいことを考える」 Posted on 2022/03/04 辻 仁成 作家 パリ

もっと楽しいことを考えようよ、とぼくはよく自分に言い聞かせている。
そんなに暗くなってばかりいてもしょうがないじゃないか。
出来ないものは出来ないし、思い通りにならないものが世の常なのだから、頭を抱えてばかりいるのは間違いだよ、と自分を説得するのである。
楽しいことをするためにぼくらは生まれてきたのだから、違うだろうか。
くよくよしているだけで人生が好転するとは思えないし、めそめそしているだけで人生の難題は解決しない。
ただそこでじっと待っているだけでは始まらないのが人生という舞台だ。
そういう時には、まず、身体を動かし、次に気分を変えて、さらに、楽しいことを考えるのがよい。
「身体を動かし、気分を変え、楽しいことを考える」
ただこれだけのことだけど、停滞した人生が、実はそれだけのことで動き出す。
光が差す。
ささやかな希望が生まれる。

自分流塾「苦しい時は楽しいことを考える」



「物は考えよう」ということわざがある。
この物とは「物事」のことである。
物事というものはぼくらがどう捉えるか、どう考えるかということだけで、良くもなるし悪くもなるものだ、ということである。
基本的には、あまりいい状況ではない時に使うことが多い。
頭打ちの現実を前にした時などに、発想を転換すれば、状況を突破することが出来るよ、という教えである。
人生というものは、次から次にいろいろな災難が降りかかってくる。
ただ、物事の見方次第で、角度次第で、それは悪くもなれば良くもなる。
発想を転換させるためには、もちろん、物事を良く考えることが大事だ。
そういう時に、人間というのはいきなり「物事は考えよう」とはならないので、ぼくはまず、身体を動かし、気分を変え、次に楽しいことをいっぱい考えるようにしている。
それが実に下らないことであっても、ばかばかしいことであろうと、なんでもいい。
楽しいことを考えることから、気分は変わり、気分が変われば身体も動き、身体が動けば、ささやかな前進が生まれるという次第である。
ささやかな前進で十分じゃないか。
頭を抱えているだけよりは、うんと、よくなっている。

自分流塾「苦しい時は楽しいことを考える」



もし、今が苦しいのであれば、楽しいことをちょっと考えてみよう。
これはいたってシンプルなことであり、難しいことではない。
けれども、人間というものはとかく難しく考えて大きく悩んでしまう生き物だから、それでは何も生まれないということにまず気づくべきだ。
ぼくは「苦しいなァ」と思う時、それをマイナスの気分で包み込まないで、「ああ、楽しいことを探そう」とプラスの方に自分を向かわせることを心掛けている。
苦しいプラグを一旦切り離して(逃げて)、そこに楽しいプラグを接続している。
それは何でも構わない。
一時的な発想の転換でいい。
そこで笑顔が生まれたら、エンジンがかかった証拠だ。
「身体を動かし、気分を変え、楽しいことを考える」
これが停滞した時にぼくらを救う最初の「おまじない」なのである。
あとは? 
がんばるしかない。

自分流塾「苦しい時は楽しいことを考える」



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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。