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自分流塾「なぜ、人間は昨日に戻ることができないのか」 Posted on 2024/02/20 辻 仁成 作家 パリ

人間というのは前向きにできているのである。
起きて、後ろに向かって歩く人はいない。
必ず、起きたら前に進んでいるのだ。もちろん、横に曲がることがあるけれど、曲がるときはそれが前となる。
後ろに歩くことができにくいように、人間はつくられているのだ。
なので、どんなに苦境に立たされていても、人間というものは、踏み出した先が前になる。
同じように、過去に戻っていくことができる人もいない。
それはどういうことか、と言うと、どんなに苦しい過去があっても、もうそこには戻ることができない、ということでいいのじゃないか。
不可逆的なものが人の一生である。
だから、苦しかった過去や、辛かった思い出は、もう思い出す必要はないということ。
前しか、人間にはないのだから、ぐずぐず、後ろに引っ張られる必要はない、ということになる。
歩けばわかる、必ず、前に進んでいる。
来た道を戻ることになっても、そこが前となっている。
昨日には戻ることができない。
それが今を生きるということだ。

自分流塾「なぜ、人間は昨日に戻ることができないのか」



だから、人間は本来、みんな前向きなのである。
目は頭の顔側についていて、自然と、前を見るようにできている。
自分が見ている方が前でいいんじゃないか。
くよくよしても、しょうがない。
過去の失敗や、後悔をいつまでも毎回何度も思い出してもしょうがない、ということだ。
前に向かって生きていくように、ぼくもあなたもできているのだから。
問題なのは、人それぞれ、前向きの方法が違うということであろう。
いろんな前向きがある、つまり、人間の数だけ、前があるのだから。
人にあわせても、人間が違うのだから、それぞれの前向きを選べばいい。
自分の方向を見て、足を踏み出せばいいだけである。
毎日、人間は「一歩」からはじまっている。
その偉大な一歩を大切にしたい。
そのためには、くよくよしていてもしょうがない。
ぼくらは不可逆的な、ぜったいに過去に戻ることができない世界にいるのだから。
でも、過去の過ちも、後悔も、失敗も、これが不思議なことに、今を一生懸命生きていると、だんだん前が開けだし、未来が輝きだすのだから、おもしろい。
そして、未来が輝いているな、と思えたら、間違いなく、それは過去の失敗や後悔があったからこその、未来が開け、今が尊い、ということになるのじゃないか。

自分流塾「なぜ、人間は昨日に戻ることができないのか」

自分流塾「なぜ、人間は昨日に戻ることができないのか」



とにかく、前を向いてしまっているのだから、後ろなど気にしなくていい。
それこそが経験というものであり、新しい経験を体現しているのが、今、というのだ。
今をおろそかにしないことが、過去を素晴らしく塗り変える唯一の方法である。
後頭部に目がないのは、過去を見ないためだ。
身体が前に進むのは、未来を掴むためである。
瞼を開くと、前しか見えないのが、その証拠である。
自分自身の前を探せばいいのだ。
あなたがあっちだと思う前にむかって、歩いていこう。

自分流塾「なぜ、人間は昨日に戻ることができないのか」

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自分流塾「なぜ、人間は昨日に戻ることができないのか」

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。