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退屈日記「人間とはなんぞや」と考えない日はない」 Posted on 2020/09/07 辻 仁成 作家 パリ

人間として生まれてきたが、この人生を振り返ると、その都度、人知を超えて様々な不思議を経験してきた。
それを単なる不思議と捉えていいのか、通る道と考えるべきか、ぼくにはわからない。でも、そこにはきっと意味があるのだ、と思わずにはいられない。
問題は、なぜ、人間は生きているのか、というところに及ぶ、もっと正確に言うならば、人間はなぜ生かされているのか、というべきであろう。
この問題がずっと、ぼくの生きる意味でもあった。

もう十年くらい前に比叡山の麓に私塾「人間塾」を開塾した。
実はその直前に瀬戸内寂聴先生が「あんた、一度真剣に比叡山に登りなさい。私が案内してやる」と呼ばれて山の麓で待ち合わせたら、先生体調崩して来れず、結局、一人で登ることになった。

比叡山延暦寺の根本中道で出迎えてくれた住職さんに案内されご本尊様にご挨拶に行き手を合わせると、閉じた瞼の裏側に黒い仏様がお立ちになられた。
そのことを横にいる住職に話すと、「元三大師」に違いないという。どちらにいらっしゃいますか?と訊くと、ここから車で15分ほどの修行場、横川に、とおっしゃった。
そこで行くと、元三大師堂の住職が出てきて、お墓に案内された。
崖淵の寂しい墓前に跪き手を合わせると再びその黒い仏が現れて、下山したらすぐに塾をやりなさい、とぼくの耳元で告げたのだ。後で調べて分かったのだけど、元三大師は厄除け大師と呼ばれ、延暦寺中興の祖、良源さんのことであった。
千年も前の人である。人間塾はそうやって誕生し、数年、そこで集まった人々と問答をやった。
その頃から、今の教育というような知識を上から教えるようなものじゃなく、生きることの意味、人間とは何かを問い続ける精神道場が必要だ、と思うようになった。
そこで私塾「人間塾」を開塾した。
残念ながら、人間塾は数年後に閉塾することになる。でも、そこで得た経験が今の自分に繋がっている。

退屈日記「人間とはなんぞや」と考えない日はない」



でも、人間塾でつかんだ経験をもっと広く深く多くの人々に届けてみたいという気持ちは薄まらず、今日に至った。
チャンスがあれば再び「人間塾」のような精神道場を開いてみたい。

デザインストーリーズはずいぶんと長く続いたけれど、ここに登壇してくださった人たちは実にユニークな方々ばかりで、世界各地に飛び出して行かれては、そこで「人間とはなんぞや」を実践されている人が多い。
成功している人も、成功など最初から目指していない人もいる。ここで出会った方々は、皆さん、独特の世界観を持っていた。

DSを始めてから、未知の世界に飛び出していく人生観の面白さや意志の強さとかに、人間の奥深さを学ぶことになる。
こういうことを語ってもらえると面白いなあ、と思うような人たちが集まった。

知見というけど、視野と言うが、組織の中でつかんでいく階級じゃなく、アノニムとして世界に出てその門を叩く、自分の夢の実現に挑んだ人間たちのなんと生き生きとした面白さか、と思いつくことになった。「思い付く」とは、ある瞬間に、「思い」が「付く」のだ。まさに、その瞬間のぼくには付いたのであった。



そこで再び私塾「人間塾」のようなものを、この時代らしくオンラインでやろうと考え始めた。
日々、様々な人出会い、新しい私塾構想を議論している。そういう方々や企業や学校とも話し合いを持つようになった。
私塾のようなものが今こそもっと必要なのだ、と思うようになる。
人生百年と言われて久しいけれど、学ぶことに終わりはない。ましてや、考えることに終わりはない。
再び、ぼくは「人間塾」のような精神道場を作らなければならない、と思うようになった。

それはいつしか、ぼくの最終目標にまで拡大することになる。これを説明するのが、ずっとぼくのここのところの生き甲斐となった。場所を選ばない学び舎がいい。

退屈日記「人間とはなんぞや」と考えない日はない」



ぼくはまず、組織とは組まず、まず個人で、デザインストーリーズの仲間たちと共に、新しい「人間塾」を開塾するつもりだ。
現在、その準備に入っている。
教育という在り処至りの方程式にのったらない、また、年齢とか階級とか人種とかそういうものに囚われない人間の学び舎を作ってみたい。話しは壮大に聞こえるが、そんなことはない。すでにこのデザインストーリーズはそれを実践している。

学生であろうが、社会人であろうが、リタイヤされた方々であろうが、学ぼうとすることが大事だ。それはつねに、「人間とはなんぞや」というところに行きつくはずである。
学校や校舎を持たない開かれた学び舎をぼくはまもなく開塾するつもりでいる。
その時はぜひ、門を叩いてもらいたい。

退屈日記「人間とはなんぞや」と考えない日はない」

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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。