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滞仏日記「ぼくは今日、日本の子供たちの先生になった。パリ日本人学校の」 Posted on 2020/12/15 辻 仁成 作家 パリ

海外で頑張る日本企業の駐在員さんたち。島国日本だけど、自動車会社も電気製品の会社もいろいろな会社が世界に進出している。
国連や政府関係の仕事をされている方も、研究機関、大学関係に従事している方などもいる。日本は先進国として、ここパリでも大勢の方々が重要な仕事に従事されている。
ぼくのようなアーティストで長期間滞在している日本人とはちょっと異なり、そういう方々は、だいたい短期間の赴任となる。
2、3年で日本に戻る方が多いのじゃないか。
家族で赴任される場合、そういう家庭のお子さんたちは、言葉の問題や、教育方針の違いによって、日本人学校に通うのがほとんどになる。
日本政府が支援をしているのが、今回ぼくが先生をやった「パリ日本人学校」(通称、パリ日)だ。
※パリの場合、他にもフランスの学校の中に日本語セクションを設けている学校もあり、ぼくはそこでも数年前に教えたことがあった。とてもアットホームな学校でしたよ。

滞仏日記「ぼくは今日、日本の子供たちの先生になった。パリ日本人学校の」



今回はZOOMを使っての参加だったけど、子供たちとは(各学年ごとに三つの教室に別れ、全部で三十数名だったと思うが)先生たちがセッティングした大きなテレビ画面を通しての対面となった。
コロナ禍だからこそのZOOM授業だったけど、結構、臨場感があった。
始まる前からぼくは各クラスの生徒たちの様子をこっそり窺っていた。ECHOESのZOOが流れ出すと、子供たちが身体を揺さぶり出した。やばい、超、嬉しい。
しかも、フルで流れたので、四半世紀ぶりくらいにぼくは自分が20代の頃に作った曲をぜんぶ聞いてしまうことに…。この曲、こんな終わり方だったっけ? 笑。

滞仏日記「ぼくは今日、日本の子供たちの先生になった。パリ日本人学校の」



オンラインスクールの地球カレッジだとどうしても司会進行の役割もしないとならないので、自分のことばかり話すと「辻さん、もっと講師の人に喋らせて」とお叱りを受けてしまう。授業の後、結構、実は毎回、落ち込んでいるのだ。笑。
しかし、今日はいくら喋っても構わない。ぼくが講師だからである。
だから、思う存分喋ってやった。あはは。
当然、一時間では足りなくて、大幅に延長してしまうことになる。でも、ちょっと人生や家事に疲れていたぼくにとって、気力を取り戻すことのできるかけがえのない時間となった。
で、どういうことを話したかというと、
表現をする仕事について、
表現の発信の仕方、
将来の夢の選択について、
人間の可能性について、
なぜ死なないで生きることが大事か、
人生や言葉の壁を乗り切るために、
人間関係の難しい局面に立った時にとる行動について、
生かされていることの意味、
などである。

滞仏日記「ぼくは今日、日本の子供たちの先生になった。パリ日本人学校の」



生徒たちはみんな、真剣に画面の中のぼくにエネルギーを向けていた。
ZOOMなのだけど、よく伝わってくる。
良い子たちだったし、優しい先生たちだった。
彼らは全員マスクをしていたけれど、真剣度が、学ぼうとする気持ちがよく分かった。
子供には、未来しかない。
多分、ぼくは大人社会の悪口陰口やっかみ誹謗中傷だらけの社会から目を背けたいのだと思う。
子供たちの純粋さに触れる時、自分も少し子供に戻ることが出来るような気持ちになる。

滞仏日記「ぼくは今日、日本の子供たちの先生になった。パリ日本人学校の」



今回、教材として拙著「そこに僕はいた」を全生徒に配って、読んでおいてもらった。
これは日本の国語の教科書などにも使われているもので、義足の少年との交流を通して子供の成長を描いた実話だ。
教科書によっては小説と紹介されているところもあったけど、エッセイである。
それを読んでもらい、人に接する時の心構え、心の持ちようなどを一緒に考える授業もやらせてもらった。
先ほど、全生徒から感想文が届いたので、びっくりした。どれも実に感動的な感想文であった。
最後に少し、許可をとってご紹介したいと思うけれど、その内容から、子供たちがぼくとの交流でなんらかの刺激を得たのは確かなようだ。
最近、息子に無視されることが多くなった父ちゃん、ちょっと嬉しかった。えへへ。

滞仏日記「ぼくは今日、日本の子供たちの先生になった。パリ日本人学校の」



ぼくは今、帝京大学の大学生と交流の場を持っているのだけど、こちらもコロナのせいで、対面授業が難しく、オンラインなどで繋がっている。
実は帝京にはロンドンに初等科中等科があるようなので、この話しをしたら学校側が関心を示してくれた。
ぼくはコロナ禍の特殊な環境の中でも勉強しないとならない日本の子供たちを励ましたい。
多分、ここフランスで息子を育ててきたからこそ、彼らの苦悩を多少は分かってあげられるような気もする。
dancyu編集長の植野さんとぼくは、貧困が進む日本の子供たちに美味しい料理を作り届けるプロジェクトをやる予定だけど、子供は国や世界の財産であり未来なのだから、支えるのが大人の大事な仕事なのだと思う。
いつか輝く目を持った大人になってもらいたい。
歳をとってきたぼくだけど、子供たちと向き合うことでぼく自身もエネルギーを貰うことが出来ている。
その子たちが夢を実現させられる日本であってほしいし、世界であってほしい、と純粋に思うのだ。
パリ日の皆さん、ありがとう。今日の授業が君たちにとって、何か心に残るものであったなら、それがぼくの大きな喜びになるでしょう。ありがとう、を忘れずにね。

※全員から感想文が届けられましたが、代表して、この生徒たちの感想文を掲載させてもらいます。

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posted by 辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。