地球カレッジ DS EDUCATION

自分流塾「失敗について語るべきだ」 Posted on 2023/06/28 辻 仁成 作家 パリ

人間という生き物が不思議なのは、自分がおかしてしまった失敗についてあまり発言したがらない、ということである。
気持ちはよくわかるし、ぼくも失敗については語りたくないこともある。
でも、ある時、気が付いたことがあった。
失敗を繰り返さないと明らかな成功は手に入らないということだ。
たくさんの失敗が、最終的に、その人の成功を導くのである。
なのでぼくは、失敗した時、「おお、これは成功への第一歩なのだ」と自分に言い聞かせるようにしている。
これは実に、いいアイデアで、素晴らしい自己啓発なのである。
失敗を隠したり、それを無かったかのように振る舞うと、せっかく、経験的なチャンスを得ているのに、それを放棄したり、無駄にすることに繋がる。
失敗したら、素直に、「しまった、また、失敗しちゃったよ」と口にすることが、実は、とってもシンプルで、大事なことなのだ。
それは少なくとも、ぼく自身の次の大いなる一歩になるからである。

自分流塾「失敗について語るべきだ」



きっと、失敗しか、成功を導かない、と言い切ることもできる。
最初から最後まで成功している人間などいるだろうか?
そういう人間に会ったことがない。
知り合いに破産を経験したことのある大企業の社長さんがいる。
新人賞に何度も落選し、今や大作家になった知り合いの小説家がいる。
受験も同じだし、起業も一緒だ。
失敗をどう捉えるか、ということが大事になるのだ。
ちょっとうぬぼれて、そのせいで練習やトレーニングも中途半端になって、結局、声が出なくて、身体が動かなくて、みんなに白い目で見られたライブを経験したことがあった。
その時の恥ずかしさや、辛さは、二度とそういうライブを経験したくないというぼくの肥しになった。
ステージに上がる前、必ず、ぼくは一番失敗した日のライブを思い出し、気を引き締めるようにしている。
二度とあんな最悪な気持ちにはなりたくない、と思うことが日々の練習へと向かわせるし、その繰り返しが、最高のライブを生み出すという次第である。

自分流塾「失敗について語るべきだ」



ということで、ぼくは小さな失敗をたくさんかき集めるようにしている。
人間、年齢を積み重ねると、大きな失敗を事前に察知して、危険を避けるようになる。
しかし、これだと成長が鈍化するのである。
だから、小さな失敗をするたびに、「やべ、また失敗しちゃったじゃん。しっかりしろよ」と自分にはっぱをかけるようにしている。
これは、長い目で、実に有効なのである。
小さな失敗は、大きな失敗を思い出させる力がある。
「今日は小さな失敗で済んだけど、気を付けろ。大きな穴ぼこに足をすくわれるぞ」
と自分に言い聞かせることで、大きな飛躍を手に入れることが出来る、というものなのである。
安心してほしい。
今日、がっかりしたことは、そのがっかりをきちんと受け止めることが出来るならば、すべてが、明日の糧となる。
こういうことを無視して、成功しか考えてないものの成功は儚く、薄いのだ。
だから、がっかりしたのなら、あなたが成長をしている、という証拠なのである。

自分流×帝京大学

自分流塾「失敗について語るべきだ」

地球カレッジ



posted by 辻 仁成

辻 仁成

▷記事一覧

Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。