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「自分流」とは、究極の「自立」と「自律」 Posted on 2020/04/20 辻 仁成 作家 パリ

「自分流」とは、究極の「自立」と「自律」

1966年4月1日、帝京大学が東京、八王子に創立してから、今年で55年目に入る。その教育理念に生き方の哲学となる「自分流」を据え、「実学」「国際性」「開放性」という3つの教育指針の下、広く社会に貢献できる人材育成を行なっている。今日は帝京大学の理事長であり、そして学長である冲永佳史さんに独創的な教育を展開する帝京大学のその中心をなしている「自分流」と教育指針についてお話を伺った。

帝京大学の教育理念「自分流」
自分流とは、生き方の哲学そのもので、自分のなすべきこと、興味あることを見つけだし、自分の生まれ持った個性を最大限生かすべく知識や技術を習得し、それを自分の力として行動する。そしてその結果については自分自身が責任をもつことである。本学はこの自分流の生き方を学生に身につけてもらうべく、サポートしている。 
 
 ご縁があり、この春から帝京大学冲永総合研究所に席を置かせていただくことになりました。再び大学の教壇に立ち学生の皆さんと向き合えることは人間とは何かを探求してきた自分にとって新たな刺激となるでしょう。そこで、ぼくが主宰するDesignStories紙面にて、大きな意味での教育とは何か、帝京大学の役割、これからの大学教育、大学の理念などについてお話しをお聞きしていきたいと思っております。今日はよろしくお願いします。

冲永佳史氏(以下、「冲永」敬称略) (笑)いや、こんな感じでインタヴューされるとは想像もしていませんでした。

 そうですか? すいません、こんなラフな感じでやらせていただきます。(笑)

冲永 はい、よろしくお願いします。
 

「自分流」とは、究極の「自立」と「自律」

「自分流」とは、究極の「自立」と「自律」
 
 帝京大学の教育理念に「自分流」という言葉がありますが、実はこの言葉にまずぼくはとても驚いております。というのもそこに通底するメッセージは、まさに「自分流」を追求してきたぼくそのものだからです。ぼくの作品作りの根底にはつねに「自分流」がありました。まずは、帝京大における「自分流」についてお聞かせください。

冲永 「自分流」とは帝京大学の教育理念であり、「生き方の哲学」なんです。この自分流の生き方を身につけ、社会で通用する人間になるためのサポートをしていくのが我々の目指す教育であって、使命だと思っています。

 自分らしさを見つけ、個性を伸ばしていく「自分流」とは、一言で言うと?

冲永 そうですね、「自分流」とは言い換えると、究極の「自立」と「自律」ですよね。自らたつ、ということと、自ら律するということですよね。この「自律」と「自立」をバランスよく行える人間、一個人である、ということが大事なんですよね。

 「自立」と「自律」、自らたつ、ということと、自らを律すること、とてもいい言葉ですね。

冲永 でもこれは決して自分勝手なことではなくて、やはり環境が自らを生かしているわけですし、逆に自らが環境にきちんと働きかけていくという相互関係ですから、そういう関係をいかに活用していくかということ、それでもって自らの存在を肯定するという、それが「自分流」の究極の姿だと思うんです。詰まるところ、自分を冷静に見つめる目がないとダメなんですよね。自立と自律この二つの「じりつ」を達成するには。そのためのいろんな訓練をどう積んでいくか、そこを3つの教育指針、「実学」「国際性」「開放性」で突き詰めていく必要があるわけです。

帝京大学の教育指針
「実学」 実践を通して論理的な思考を身につける
「国際性」異文化理解の学習・体験をする
「開放性」必要な知識・技術を偏ることなく幅広く学ぶ
 

「自分流」とは、究極の「自立」と「自律」

 大学のパンフレットの中に書かれていた言葉で、頭から離れない言葉があって、それは「責任は自分で取る」という言葉なんです。自分の生まれ持った個性を最大限に生かすべく知識や技術を身につけそれを自分の力として行動する。その結果については自分で責任を取る。この「自分で責任を取る」というところが非常にスポーツマンシップでいいですよね。今の時代、この自分で責任を取ることができない人が多い、途中で投げ出してしまう人が多い。

冲永 まあ、自己責任論という単純な物差しで語られることが多いのですが、決してそうではないんですよ。やはり自分で引き受けられるものはちゃんと引き受ける。でも引き受けきれないものは助けを求めてもいいんですよ。それも自分で責任を取ることに繋がりますから。ですからもう少し広い視野でこの責任とは何かを捉える必要があると思うんですね。

 どうしてもうまくいかない時、一人で抱え込むのではなくて、外に助けを求めてもいいんだよ、と。けれども、その結果については全部自分で責任を取りなさいよ、という考え方ですね。そういう考え方が帝京の教育理念の根底にあるということ。そして、それが教育指針の一つとなっている「実学」を学ぶことへと繋がっていくのですね。

冲永 そうですね。「実学」の実践により、実社会で起きるさまざまな事象を自ら学び吸収する力と、論理的な思考を身につける、ということですね。経験として学びながら、表層的な知識やスキルにとどまらず、学んだことを実践し、実社会に力強く踏み出せる人材を育てる、ということ。

 それが自分流の人材育成ということですね。

自分流×帝京大学




posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。