PANORAMA STORIES

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。 Posted on 2025/06/28 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
いよいよ、約10日後、7月9日より、21日まで、日本橋にある三越本店、コンテンポラリーギャラリーにて、辻仁成の新作を集めた「Le Visiteur」展がスタートします。
Le Visiteurとはフランス語で、「訪問者」という意味になります。
人生というのは、劇作家・サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」ではないですが、その人が来る、何かが起こるのを待つ運命の中にあるようです。
待っているものが何か、それは、わかりません。
この個展で描かれたいくつかの作品には「前日」というタイトルが付されています。(メインタイトルは「Le Visiteur」ですが、サブタイトルに「前日」という名を持つ作品が登場します。これは、秋に三田文学に出版される小説「前日」と呼応しています)
今日、何か驚くべきことが起きた、とします。
もしかすると、人類の目の前に、歴史を覆すような出現、が起きる、とか・・・。
その何かが起きた前日はどうだったのでしょう。
普通の日常の中に、翌日に起こる何かの兆候があったのか。
その日常を思い出すことが出来ます。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。



そして、ついに、その日、どこからか、どういう理由でかは知りませんが、私たちの命運を覆す訪問者がやってくるのです。
この訪問者とは、人間じゃなく、現象かもしれないですし、死とか生かもしれない、あらゆるものが当てはまります。
その瞬間、もしくはその前日、あるいは、その翌日を、ぼくはただ、キャンバスの中に描いてみました。
人間の一生は、不可逆的な運動の中にありますね。
戻ることのできないものが人生ですが、絵の世界では、時間を戻し、そこに描くことが可能なのです。
これらの出展作品のほとんどが、何かが訪れた時の前後を描いています。
物語を説明するような野暮なことはしませんが、どうぞ、個展会場で、前日に何が起きたのか、その後、何がはじまるのかを、ご想像ください。
観る人の心に大きく委ねられた作品となっています。
あなたがこれらの作品の中から、未来にフックする鍵を見つけ出せることを、作家としては希望していますが、それは、長い時間がかかっても問題はありません。
じっと、作品を眺めて、そこに、誰かが現れるのを、待てばいいのです。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

※ 三越日本橋本店に出展される作品の多くは、実は、パリの屋根裏部屋アトリエで制作されました。そこの窓から見えるエッフェル塔にいつも癒されながら描いたので、エッフェル塔の影響は大きいのです。このアトリエはまだ稼働しています。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

※ ポスターにもなったこの作品も、実は屋根裏部屋アトリエで制作されました。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

※ この大きな50号の作品の中ほど、よく見ないとわからないところに、男性と女性が描かれているのですが、人類、です。笑。この二人の微妙な距離感、好きなんですよ。下のポスターのコンテンポラリーという文字のすぐ、下あたり? 会場で、探してくださいね。入り口に展示される予定です。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

そういえば、ぼくは幼い頃から、空を見上げるのが大好きでした。
空は「前日」であり、「翌日」を示唆しています。
見上げているのは「今」ですが、時間の流れの線上に位置し、私たちを見下ろしています。
何かが宇宙からいつか降りてきて、ぼくらを導く、というようなイメージが起きたことはありませんか?
ぼくは幼い頃、このような予兆を繰り返し感じていました。
希望というか、救世されることを待ちわびているようなところが、あるいは人間には誰しも、あるように思います。
その夢は、まるで予言のように、非常に鮮明で、ものすごく強いイメージを含んでいたのです。
「Le Visiteur」とは何か? 

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

※ パリのアトリエはノルマンディのアトリエより狭いですが、ほぼ、倉庫状態になっています。日本へと旅立つ前、全作品がアトリエに並べられ、ニス塗り、されます。ニスが乾いたら、日本へ飛びます。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。



ことばは窮屈なので、言葉の出番はここにはありません。
しかし、プリミティブな部分を刺激する何かを、この作品群の胎動の中から、感じ取ってもらえたら、作者としてはとっても幸福です。
誰もが待ちわびる何かが出現するその前日のこの世界、そこに、私たちは生きているのです。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

「Le Visiteur」展、
東京、7月9日から21日まで、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーにて。
岡山、7月23日から28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。



夏の個展迫る。辻画人、「Le Visiteur」展を語る。

自分流×帝京大学
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Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。