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パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」 Posted on 2026/05/08 Design Stories  

 
パリ中心部の建物には、高さや外観に強い制約がある。統一された美しさはそれによるものだが、パリ外縁部では少し様子が異なっていて、再開発がすすみ、近代的なアパルトマンが目立つようになってきた。
メトロの駅を3つ4つ先に行くだけで街のキャラクターがガラッと変わるものだから、時代まで飛び越えているような感覚になってしまう。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※パリの新しいアパルトマン群



 
そんなパリのモダン建築が気になり、今回は16区にあるル・コルビュジエのアパルトマン/アトリエを訪れてみた。モダニズム建築の巨匠と呼ばれたル・コルビュジエが、亡くなるまで妻イヴォンヌとともに過ごしたという、住まい兼アトリエだ。建築自体は1930年代初頭に完成しているものの、21世紀にあってもまったく古さを感じさせない。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※ル・コルビュジエのアパルトマン入り口。この向かいにはサッカースタジアムもある

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※ル・コルビュジエの部屋へと続く廊下

 
パリ市とブローニュ=ビヤンクールのちょうど境に位置するこの場所は、ル・コルビュジエが設計を依頼された当時は、未開発地域の一部であったという。 依頼を受けた1920年代からしてみればかなり斬新な構想だが、パリ中心部の秩序から少し離れているからこそできたプランなのかもしれない。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※ル・コルビュジエ



 
なお、ル・コルビュジエの建築作品は世界各地に点在していて、合計17の構成資産としてまとめられている。フランス国内にあるのはそのうちの10件で、2016年にユネスコの世界遺産に登録された。今回訪れたパリ16区のアパルトマン/アトリエも、そのうちの一つである。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※エントランスから居間

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※居間の一部

 
室内に入ったときの第一印象としては、「広く、明るく、現代にあってもまったく違和感がない」というものだった。7階建てのアパルトマンは、各階2戸のゆとりあるつくり。約100㎡の広さで、セントラルヒーティング・そして当時としては珍しい電動設備などが取り付けられた、最新の建物であった。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※ダイニングルーム

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※キッチン

 
ル・コルビュジエのアパルトマンは建物の最上階にある。フロアは上下に分かれていて、下にはリビング・ダイニングルームとキッチン、アトリエ、寝室とバスルーム、そして使用人の部屋が存在していた。階段を上ったフロアには、パリを一望できる屋上テラスとゲストルームが設けられている。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※上階へと続く螺旋階段

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※上階のゲストルーム

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※ゲストルーム



パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

 
ル・コルビュジエの特徴である「直線」や「柱」が多くあったことも、強く印象に残った。曲線的で、装飾の多かった当時のオスマン建築とは一線を画している。必要な機能を線で区切って整理していくイメージだ。

ル・コルビュジエと妻イヴォンヌは、かつてサン=ジェルマン・デ・プレで暮らしていたそうだが、自分たち夫婦と使用人、そして愛犬パンソーとの生活の場をここに求めたという。同時に、アパルトマンには開放的なアトリエも設けて、絵画や執筆などの創作活動も行っていた。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※ヴォールト天井のアトリエ

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※アトリエの背後にはル・コルビュジエの書斎が

 
ここは、光が本当によく入る。ル・コルビュジエはそんなアパルトマンについて、「空は輝き、2週間前から僕たちは新しい奇跡的条件のもとで暮らしている。ここは天井の住まい。というのも、ここには空、光、空間、そして簡素さのすべてがあるからだ」という言葉を残した。彼自身もアパルトマンを深く気に入り、最期まで手放さなかったという。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

※屋上からの眺望

 
パリとパリ近郊には、アパルトマン/アトリエ以外にも彼の建築遺産がいくつかある。「メゾン・ラ・ロッシュ 」や「サヴォア邸」 などが有名だが、1920〜30年代に建てられたこれらの邸宅は、当時パリのモダン・ムーブメントの象徴であったそうだ。

今回は、そうした建物が100年近く前に考えられていたという事実が、やはり一番の驚きだった。アパルトマンの老朽化は否めないものの、各部屋の生活動線はほぼ完璧。用途ごとにきっちり分かれていた20世紀初頭の建築と比べると、いかに革新的で実用的であったかが分かる。特別に奇抜というより、今の住まいの原型といえるところも素晴らしい。
 

パリ・アート情報「モダン建築の原点、ル・コルビュジエのアパルトマン」

 
ガラスを大胆に取り入れた先駆的なル・コルビュジエのアパルトマン/アトリエには、日本語のパンフレットも置かれていて、場所を深く理解するのに大変役立った。
パリ中心部からメトロで約20分ほどのところにあるこの世界遺産。歴史的建造物とはまた違う、モダン建築の魅力に触れられた貴重な一棟であった。(大)
 

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