ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「不安に立ち向かう」 Posted on 2026/05/23 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
フランスはこれからしばらく暑くなるようで、パリやノルマンディで30度くらいだそうです。
さて、相談窓口を開店いたしますね。

匿名希望Mさん
「なんでかわからないのですが、ぼんやりとした不安というものに襲われることが多くなっています。年齢のせいもあるかもしれないのですが、とつぜん、未来が怖くなるというのか、でも、お医者さんに通うようなはっきりとした不安じゃなくて、普通に生活している中に差し込んで来る暗い影のようなものに付きまとわれています。辻さんはいつも熱血ですが、不安とか、あるのでしょうか? もし、あるならば、どういう時にどんな不安になり、それをどうやって乗り越えているのか、知りたいです」

辻村相談窓口、「不安に立ち向かう」



おこたえしまーす。

「不安、あります。しょっちゅう不安です。昨日も書きましたが、ぼくは突発性難聴のようなものがあるようで、不意に倒れたりしますし、昨日も頭を打ちまして、誰もいなかったので、しばらくしゃがみこんで、耐えました。その後、やっぱり、不安にはなりますね。そういう明らかな事態じゃなくても、おっしゃるような不意に襲われるぼんやりとした不安に、割と頻繁にやられたりしている父ちゃんです。でも、もともと楽天家なので、次の瞬間には忘れて、また仕事の続きに戻ったりしていますが、ここ最近、コロナ禍以降、イラン戦争、ウクライナ・ロシア戦争などが頻発しているせいもあって、海外在住というのもあるのでしょうが、自分をどこに置いて、どうやってこの先を生きていけばいいのか、見えにくくなることが多く、不安です。例えば、ここでもよく書いていますが、原油不足で、自分が一年かけて描いた絵が日本にちゃんと届くのか不安ですし、世界がそれまで維持できているのかも、分かりませんからね、不安ですし、年齢のこともね、めっちゃ不安です。若い友人たちに実年齢を言うと、「ええええ、辻さん、やばい。マジ? もうそんなになるの、やばい、やばいよ、辻さん」と言われます。つい、ひと月ほど前にも、言われました。朝起きて鏡をみると、ものすごい皺くちゃじいさんになってる自分がいて、びっくりして、狼狽えることも多くなりましたねー。ささやかなそういう事象が繰り返しやってくるものですから、だんだん、不安が膨らんでいる状態です。恐ろしいですよね、恐ろしや。じゃあ、どうするのか、・・・。まず、そこでぼくは、もういいか、と自分に言い聞かせています。しょうがないものはしょうがないじゃん。皺くちゃは仕方ないじゃん、ダメなものはダメだし、死ぬときは死ぬし、今までなんとかなってきたんだから、なんとかなるんじゃないかな、と開き直るようにしています。極端な方向へシフトをするんですが、たしかに、この不安は若い頃からありましたね。その頃、出会った「禅」のことばに、「起きて半畳寝て一畳天下とっても二合半」という尊い言葉がありまして、「日々のことば」でも紹介させてもらったことがありますが、いい言葉なんで、もう一度、説明させてもらいます。人間は、起きている時、畳半分もあれば座していられるわけで、眠くなっても、畳が一畳分もあれば寝られるわけで、仮に天下をとって大統領になっても一日に食べられるお米は二合半程度だから、なんとかなるよね」という教えなんです。ぼくは、25歳でバンドマンでデビューするんですが、月に5万円の給料でしたから、ある日、思ったんです。「いつでも、4畳半からやり直せるじゃん」って。これも、何度も書いてきた言葉ですから、耳にタコが出来るくらい、知っている人もいるかもしれませんが、ずっと、四畳半からやり直せる、と言い続けてきたわけです。でもね、実は、よく考えると、今まで四畳半で暮らしたことないんですね。一番狭かった部屋で6畳間でした。笑。だいたい、お米なんか、一日にお茶碗一杯程度(昼半膳、夜半膳)しか食べないので、2合半って、ぼくにとっての何日分? という感じなんです。これは、つまり、人の不安って、頭の中で勝手に膨らんでいる、ということを表しているんじゃないでしょうかね。なので、笑います。ただね、ぼくは不安症だからか、創作をとめたことがありません。寝る以外はずっと何か作品を作り続けています。今日も発表する予定もない詩を作り、ミュージシャン引退した身でありながら曲も作り、パステル画、油絵(描きかけ)に筆をいれ、文章も原稿用紙10枚くらい、なんだかんだ書いてましたが、それでも落ち着くことはないわけです。まだ、ダメだ、全然ダメだ、もっとだ、もっとだ、と寝る直前まで何かやっています。やり過ぎて不安になるタイプかもしれないです。ただ、「のめり込む」ものがあると、不安はある程度、弱まります。あなたは「のめり込めるもの」がありますか? なんでもいいと思います。好きなことに集中する時、人は、不安を忘れることが出来るからです。ぼく、絵に没頭している時に不安になることはないんです。絵が完成して、ぼんやりすると、急に不安になったりしますが、作品と一生懸命向き合っている時、自分本来の姿がそこに出現して足場が出来ている感じを覚えます。なので、アドバイスと言えるかわかりませんが、なるようになる、死ぬ時は死ぬ、と自分に言い聞かせつつ、のめり込むことのできるものに、集中してみてください。「ああ、ぼくはおじいちゃんになった。誰にも相手にされなくなった。もう駄目だ。顔が皺くちゃだ、じじいさまだ。終わりだ、最後だ!」と叫びたくなったら、ぼくは描きかけの油絵の前に立ち、パレットナイフを握りしめ、なにくそ、とそこに自分をぶつけています。没頭し、のめり込むと、不安は退散します。さもなくば、「起きて半畳寝て一畳天下とっても二合半」と唱えてみてください。いいですか、人間はまちがいなく、死ぬまで生きるんです。死ぬまで生きるんであれば、好きなことをとことんやってから終えましょう。えいえいおー」

辻村相談窓口、「不安に立ち向かう」



近況のようなもの。
8月5日から、いよいよ、日本で個展がスタートします。三越日本橋本店、特選画廊で、11日まで。63点。
10月22日から、コンコルド広場のアートフェアに参加。15点くらい。
11月5日からリヨンで個展です。45点程度、詳しくはまた、のちほど。

辻村相談窓口、「不安に立ち向かう」

辻仁成 Art Gallery
自分流×帝京大学