TPA校長奮闘記

校長奮闘記「学びの喜び、毎日の気づき」 Posted on 2026/06/09 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
ぼくはこの年になっても、いろいろと学ぶのが好きで、好きすぎて、特に今は、フランス語、とか、ワインとか、芸術研究会に顔を出して、コツコツと視野を広げています。独学が多いので、ま、偉そうには出来ませんが、独学の達人であることは間違いありません。
ただ、一つ、後悔があって、なんで芸大にすすまなかったのかな、と・・・。実は高校生のころ、芸大に行くのが夢だったのですが、様々な理由があり、受験しなかったんです。なんででしょうね、後悔先立たず。
しかし、もし、どこかに入っていたら、人生はどうなっていたのか、と考えない日はないです。もっと早く絵の仕事をしていたのかもしれないし、ね、運命ってわかりませんね。だからですかね、今はアートカレッジの校長をやっているのかもしれません。

それでね、実は、自分でスタートさせた学校なんですが、笑わないでくださいね、面白いんですよ。今まですべての授業(ほぼ、生配信)をリアルタイムで受講しているんですが、芸大に行きたかった辻青年がそこにいて、講師陣のお話を楽しみながら受けているわけです。一番前の席で。
この記事を読んでいる皆さんは、ほとんどの人が生徒さんじゃないので、中身が分からないと思うんですが、かなり盛り上がっているのは事実です。ぼくも楽しくてしょうがないんですよ。この10人の先生を選んで出演交渉をしたのはぼくなんですが、ぼくが学びたいことを教えている人を探したわけですから・・・。あはは。彼らが全て教えてくれるので、理想の芸大っていう感じで前進をしております。芸大じゃない、アートカレッジだった、笑。

今日は、ランドスケープの授業でしたが、前回、水眞先生(ベルサイユ宮殿庭園大学を出ています)が課題を出したんです。自分の住む町のランドスケープのスケッチを描くようにって、その課題に生徒さんがこたえているんですが、素晴らしかった。どうやって人々が見える世界を可視化しているのか、ものすごくよくわかって、三四郎と散歩しながら携帯で見ていたんですが、気が付くと、ベンチに座って、さんちゃんは、ベンチの下で寝て、ぼくは前かがみで、聞き入って・・・。笑。
面白くて、そこで小一時間、学生になってました。特に興味深かったのは、水眞先生はいま、ボジョレーに住んでいるんですが、学生時代は19区だったかな、パリの上の方に住んでいらして・・・。自分が長年暮らしていた地域の古い地図を最初に見せてきて、それから現在の地図との比較がはじまります。
「あのですね、この坂をくだると、素敵な教会があって、その前にカフェがあり、小さな公園もあるんですね。でも、19世紀初頭にはこの教会はなかったし、このあたりは畑だったんですよ」
地図と写真でぼくらに彼女が青春を生きた街並みが見事に浮かんできたんです。ぼくね、ノルマンディの小道の上で拝聴していたんですが、頭の中に、19区の街並みが浮かび上がりました。

校長奮闘記「学びの喜び、毎日の気づき」

※ この古い地図と現代の地図を比較するんですが、面白かったです。古い地図はまだ畑がたくさんあって、教会は存在しません。新しい地図には、畑はなくなっていて、教会が出来ています。実はぼくもこの教会の前のカフェに行ったことがあります。この辺で、映画を撮ったことがあるので・・・。

校長奮闘記「学びの喜び、毎日の気づき」

※古いポストカードには、教会がうつっていますが、何百年も前のものじゃないんです。1919年には教会が建っている。意外と新しい・・・。パリの移り変わりを、ランドスケープの先生が蘇らせるというか、変遷を語るというか、作家が悔しい、と思うほどの贅沢な試み、この街の変遷が辿れました・・・。素晴らしい。

校長奮闘記「学びの喜び、毎日の気づき」

※ これが今の現代の街並みです。こういう学問があるんだって、引き込まれました。



全ての人に、暮らしがあり、その人たちそれぞれにランドスケープが存在するわけです。水眞先生の授業はそれを生徒さんに教えていた。つまり、普段、気づかないなんでもない自分たちの生活環境にも、歴史があり、変遷があり、出会いや別れやドラマがあった、という、見えない世界を見せられた・・・。ぼくね、作家ですが、ベンチの上で、興奮してしまいました。面白いなーって。
受講生の皆さんのコメントが、チャットでひろえるんですが、みなさん、気づかされて、感動されているのが伝わって来た。
こういうのこそ、学問って言うんじゃないですか?
難しいことじゃない、気づき・・・。
で、そのあと、彼女はベルサイユ宮殿の庭園のランドスケープについて話すんですが、なるほど、そこに繋がるのか、とおどろく、父ちゃん校長なのでした。
わかります?
ぼくは作家で絵描きで音楽家ですが、知らない世界がこんなにあった。まだまだ学ばないとならないことがたくさんある。そして「学び」には必ず生きる喜びがくっついてきます。
帝京短期大学の冲永学長に、ぼくはこの役目を与えられたのです。ありがたや。最高のおもちゃを与えられた子供のようなものですからね。笑。
ぼくの仕事の第一は、この学校のビジョンづくりでした。まず、自分が学びたいこと、自分を興奮させる何かを持つ先生を、探しだすことでした。そして、最初の10名がそろったのです。
上半期が無事に推移していますが、順調だと思います。ぼくが楽しいと思えることがその基準です。校長ですが、ぼくは最初の生徒でもあります。

校長奮闘記「学びの喜び、毎日の気づき」

※ これが今日の水眞先生の課題でした。小麦粉をつかって、自分が想像する土地の傾斜とか、風景を作るというもの。白黒の写真にして、自分なりの空想力でその土地を解説するのが、次回までの生徒への宿題なんですよ、ひゃああ。面白い! 小麦粉あります!

ということで、毎回、楽しんでいる父ちゃん校長でありました。実技の先生もいれば、芸術論の先生もいます。皆さん、パリで出会った先生たちなんですが、それぞれ個性があって、本当に面白いです。やってよかった、と思います。プロデュースした人間であるぼくが面白いと思わなければ学校なんか、意味はない、ですよね。学び続ける人生というのは、意味が、あります。せっかく生きているのだから、誰かの素晴らしい経験をくみとり、そこから自分の世界を広げていきましょう。えいえいおー。

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辻仁成 Art Gallery

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「校長からのお知らせ」
8月5日から11日まで、三越日本橋本店、特選画廊にて、辻仁成展「鏡花水月」、三越を辻美術館に!
10月22日から25日、パリ、コンコルド広場でのモダン・アートフェアに出展。コンコルド広場特設会場にて。
11月5日より、リヨン市で個展。先日、第18回リヨンビエンナーレに公式参加が決定しました。よっしゃ。