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「困ったら負け」という野本のおやじの哲学 Posted on 2026/11/02 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
リヨンに向かう途中、パリに立ち寄り、国虎屋の飲もちゃんこと野本と居酒屋のはしごをしたのでありました。最後は一風堂でラーメンでした。
そこで、いい話を聞いたので皆さんにご報告です。
「あ、あのな、うちのおやじが生きていた時によく言った言葉があんのや」
「へー、それは、どんな」
「まさふみ、困ったら負け、やでって」
「困ったら負け? どういう意味?」
「つまり、人生、困らんようにやれ、というおやじの教えや」
ぼくは、酔っていたのですが一気に目が覚めました。なかなか言える言葉じゃありません。
「野本のお父さんって、何をやられていたの?」
「ガソリンスタンド」
なるほど、うなずけました。ぼくの父親からも同じような言葉をもらったことがあります。
「ひとなり、手に職をつけろ」
ぼくが父親から譲り受けたものは、今の自分に少なからず影響を与えています。手に職をつけろ、のおかげだと思っています。
そして、野本の御父上がおっしゃった「困ったら負け」、実に深い言葉じゃないですか。
困らんようにやれ、という対の句は、組織に入らない一匹狼のおれらのようなぼくのような人間には響く言葉だと思いました。

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学



ところで、ぼくらはいつものようにへべれけになっていたのですが、そこに、さっそうと現れた男がいます。
この男、パリで今、もっとも信念のある男と言われいるのです。
新聞を売りにやってきたこの初老の男、アリさん・・・。
1967年からこのパリ左岸のカフェを渡り歩き、毎日、昼から夜中まで新聞を売っています。それは一冊の本になりました。
そして、今年、アリさんはフランス政府から勲章を授与され、大々的に報道されたのです。素晴らしい!!!
左岸界隈の住民でアリのことを知らない人間はいません。
1967年から彼は毎日、新聞をカフェで憩う人々に売って来たのですからね、いいですか、1967年からです。
ぼくが8歳の時であり、現在、アリさんは74歳なんです。いったい、何歳から新聞を売り歩いていたというのでしょうか。
そこに勲章を与えるフランスもすごいですよね。
なんと、東京新聞でも取り上げられております。

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学

※ こちらが、アリさんです。74歳。毎日、10時間、昔は、19時間、これをやっていたというのだから、すごい。雨だれ石を穿つ、と言いますが、まさにこのことですね。頭が下がります。

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学

※ アリさんから購入させていただいた今日の「ル・モンド」紙でございます。



「困ったら負け」という野本のおやじの哲学

ということで、まもなく、ぼくはリヨンに向けて出発します。4日、17時から内覧会があります。リオンの画廊では自由出席できますので、リオン在住の皆さん、お待ちしております。ぼくも、途中で参加いたします。
☆
そして、8日、バスティーユのライブハウス、カフェ・ド・ラ・ダンスで、ライブをします。フランス人バンド、エバーマインズのライブに招かれ、ぼくは30分間、20時から歌います。

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学

「困ったら負け」という野本のおやじの哲学



自分流×帝京大学

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。