欧州アート・カルチャー情報

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」 Posted on 2026/07/02 Design Stories  

 
歴史的建造物、立派な彫刻、高い空……と、パリでは、視界の「上のほう」に自然と目がいく。下を向けば、今度は石畳が敷き詰められているパリだが、それとはまた違う“屋内の床の装飾”にも、実は注目してほしい。
綺麗に並べられたあの床タイルには、どんな思いが込められているのだろう? 
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」



 
パリを歩いていて気づくのは、そんな床の装飾が、美術館や旧貴族の邸宅でよく見られるということ。パッサージュと呼ばれる、屋根付きのアーケードにも存在している。とはいえその数は、最早あまり多くはない。

パリで一番よく見かけるものとしては、邸宅時代から残る「白黒の大理石の床」だろうか。昔の屋敷を改築した美術館などで発見するものだ。たとえば、ピカソ美術館やコニャック・ジェイ美術館では、(空間も含めて)美しい床を見ることができる。
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

※コニャック・ジェイ美術館

 
個人のアパルトマンでも見られるこの模様は、大理石や石灰岩といった石板を組み合わせた床、なのだそう。白い部分は光を反射して室内を明るく見せ、黒い部分は空間を引き締める、という効果があるのだとか。遠近感も生まれるので、ホールが広く見えやすい。

たしかにこの模様を見かけると、空間全体に「シック」な印象を持つ。エレガントで心地よい緊張感もあって、美術品や家具がよりいっそう映えて見える。
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

※ヴァンドーム広場近く、カスティリオーヌ通りの床

 
パリを歩いていると、何気ない歩道にも美しい床が突然現れたりするので、驚く。ヴァンドーム広場近くにある、カスティリオーヌ通りの床がそうであった。
これは、石の組み方だけで何種類もの模様を見せるという技術。ささやかだが実に見事で、「石とともに歩んできた」フランスの文化を、足元から感じた瞬間だった。
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」



パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

 
パリにはもう一つ、見事な床がある。小さな石を一つ一つ敷きつめて模様を描く、モザイク床だ。 もっとも有名なのは、19世紀の屋根付きのアーケード、ギャルリー・ヴィヴィエンヌ(Galerie Vivienne )だろう。あまりに美しいものだから、用事があってもなくてもつい立ち寄ってしまう場所だ。

ギャルリー・ヴィヴィエンヌのモザイク床を手がけたのは、実はフランス人ではなく、イタリア出身のモザイク職人、ジャンドメニコ・ファッキーナ。彼は古代ローマ時代から伝わるモザイク技法を19世紀のパリに広め、高く評価された人物だ。その功績を称え、パッサージュの入り口にはファッキーナの名が「モザイクで」刻まれている。
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

※ギャルリー・ヴィヴィエンヌの入り口に刻まれたファッキーナの名

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

※モザイクタイルと椅子の相性もバッチリ

 
モザイクを一片ずつ、現場で敷き詰めるのが当たり前だった時代に、ファッキーナは工房で組み立ててから設置するという技法を考案した。今では珍しいことではないものの、当時では時間とコストを大幅に抑えられたため、モザイクがより身近になっていったそうだ。
やがて美術館のプティパレやオペラ・ガルニエ、デパートのプランタンなど、パリを代表する名建築へと次々に採用されていく。
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

※プティパレのモザイク床

 
プティパレの床にいたっては、もう素晴らしいのひと言。これだけ緻密な模様なのに、色合いがやさしいせいか、ずっと見ていてもまったく目が疲れない。白い大理石彫刻との優雅なコントラストも印象に残る。
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

※パリのデパート・プランタンの看板装飾も実はモザイク

 
こうして広まったパリのモザイクの床。プロの職人による装飾も素晴らしいのだが、当時の流行がさりげなく今のフランスに受け継がれていることも興味深い。というのは、フランス人のお宅のリフォームで、バスルームなどにモザイクタイルが敷き詰められているのを見かけることがあるためだ。彼らはDIYをして、やはり一つ一つ自分たちで敷き詰めていったという。

小さなタイルを一片ずつ貼っていく……。地道だけれども無心になれるこの作業では、きっと心が整うのだろう。モザイクの制作過程も、いつかぜひ体験してみたい。(大)
 

パリ・カルチャー情報「パリで目線を下げて、モザイクの床を見つめてみる」

自分流×帝京大学