欧州アート・カルチャー情報
パリ・カルチャー情報「パリのカフェ、店名に込められた物語」 Posted on 2026/07/05 Design Stories
飲食店の「名前」には、その店らしさが表れている。ユニークなもの、覚えやすいもの、一工夫あるもの、と、世界共通でいろいろな特徴があると思う。フランスでももちろんそうだ。そんな店名を、「フランス語の勉強のために」と眺めながら歩くことが多いのだが、見ているうちに面白い特徴があることに気づいた。パリのカフェ文化には、そうした店名も大きく関わっている。

まず感じたのは、店名に「カルチエ(地区)の名前」を反映させている、ということ。これは、パリで本当によく見かける。店舗の名前が、住所そのものになっているのだ。
たとえば先日、左岸のリュクサンブール公園近くを歩いていたときに、「Le Guynemer(ル・ギヌメール)」というブラッセリーを見つけた。何だろうと思い調べてみると、すぐ近くにギヌメール通りという有名な通りがあった。

※ブラッセリ―「Le Guynemer」
さらに調べてみると、ギヌメールは実は人物名。第一次世界大戦中の国民的英雄で、 フランスでは学校や通り、公園などに名付けられるほど有名なのだという。 こうした地名をそのまま受け継ぐカフェ・レストランが、パリではとても多い。
潔いネーミングであるし、名前をたどることで、カルチエの記憶までたどることができる。

※「Café de la Mairie」
また、パリ6区、サン=シュルピス教会近くにある「Café de la Mairie(カフェ・ド・ラ・メリー)」も面白い。Mairieとは、市役所の意味。ここでは6区の区役所となるが、区役所前にあるからそのまま「区役所前のカフェ」、と名付けたようだ。
日本であれば、「カフェ○○市役所前」という名前はつけないかもしれない。しかしパリでは、場所そのものがアイデンティティになっていて、地域との結びつきがとても強い。古いカフェであればあるほど、そうした傾向が強いと感じる。

※地下鉄駅、Étienne Marcelの名に由来した「Café Étienne」
もう一つは、人名がそのまま店舗名になっているケース。これはむしろ世界共通だと思う。オーナーや、親しい人物の名前を冠したカフェ・レストランだ。

※「Chai Antoine」

※「Bistro d’Edmond」
例を挙げると、写真の「Chai Antoine(シェ・アントワーヌ ※chezと飲み物のチャイを合わせた言葉遊び)」や、「Bistro d’Edmond(ビストロ・デドモンド)」。人名が使われているので、オーナーの名前なのかな? と容易に想像できる。
フランスでは、料理もワインも作り手を大切にする文化があるが、店の名前が人名だと、やはり「どんなシェフなのだろう?」「何がスペシャリテなのかな?」と、その人自体を見てみたいという気持ちになる。こちらも住所を反映したネーミングと合わせて、フランスで多く見かける店舗名だ。

※「L’Ami Georges(ジョルジュの友達)」。ジョルジュさんの友達とは一体…?
逆に、独自の店舗名で世界観をつくっているところもある。先日、歩いていて発見した「Moustache(ムスタッシュ)」というビストロがそうであった。
ムスタッシュは、フランス語で「口ひげ」という意味。見ると、看板にもメニューにもお髭のマークが……。

※「Moustache」

「Moustache」でも、オーナーの特徴を表しているのだろうか? 髭がトレードマークのシェフなのか? と思っていたら、これは芸術家のダリや、セルジュ・ゲンズブールの口ひげを象徴しているのだとか。二人とも、パリに深く関わってきたアーティストだ。つまり「Moustache」は、フレンチカルチャーのアイコンから発想を得たネーミング 、ということらしい。
こうした世界観とユーモア、覚えやすい名前。ここ最近のパリでは、同様の店舗名が増えてきたような気がする。短めの名前で、おしゃれで、フランス語話者でなくても記憶に残るような店名。たしかに、パリのカフェならぬ「コーヒーショップ」では、そうした名前を非常によく見かける。

※パリのコーヒーショップ「Wiolette」
そのうちの一つ、コーヒーショップの「Wiolette(ウィオレット)」は、甘さ&エレガンスの象徴であるスミレにインスパイアされた店名なのだそう。これは、オーナーの愛犬の名前でもあるという。地名でも人名でもない、オリジナルでキャッチーな店舗名が増えてきたというわけだ。
さらに近年では、フランス語以外の店名もぐっと増えた。英語はもちろん、アジア、北欧、南米といったワールドワイドな言語でネーミングされているのも、異文化がますます交差しているパリならでは。店がいつ頃できたのか、もはや名前だけで判断ができるほど?!

※パリのコーヒーショップ「GOODNEWS」
店名だけでパリのカフェ文化を語ることはできないが、かつてのカフェでは地域の歴史やストーリーを、現代ではより個人の思いを名前にのせていることが分かった。店名の由来を知ってからカフェに入ると、なぜかその一杯まで違って感じられるから不思議だ。(る)


