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パリ最新情報「3月5日、欧州の上空から」 Posted on 2022/03/06 Design Stories  

 
機内の窓から見える景色はいつもと変わらない。
真っ白な雲海と真っ青な空。
時折、遠くにすれ違う飛行機がきらきらと陽光を受けて通り過ぎてゆくのが見える。
今、私はルーマニアの首都ブカレストの上空を通過中だ。
本当なら昨日乗るはずだったパリ直行便は欠航となった。
すでに欧州のエアラインは軒並みキャンセルになっていたので嫌な予感はあったが、その予感は的中。
知らせを受けたのは出発前日の午後だった。
昼前にオンラインチェックインのメールが届き、やれやれ、これで安心とホッとしてコロナの検査を受けに行った直後に「欠航のお知らせ」メールが届いた。
 

パリ最新情報「3月5日、欧州の上空から」



 
それは、「振り替え便を順次お知らせします」と書かれた一斉メールだった。
どんな問題も放置しておくとろくなことにならない。
状況だけでも聞いておこうと航空会社に電話すると、15分以上は待たされただろうか、ほとほと困り果てた様子のオペレーターから、早急な振り替え便の手配は不可能な状況と告げられた。
「別便の空席がまったくなくて、現状では早くて3月20日以降の便になりそうです」。
え、2週間以上先!所用で早くフランスに戻らなくてはならない旨を告げ、どんな経路でもいいので空きがあったらお知らせくださいと電話を切った。
「一人ずつ個別で手作業で探しているので時間がかかります。人員も足りてなくて」とおっしゃっていたけれど、1時間後に電話があった。
スイス経由で予定の翌日に空きがあるとのこと。
時間を聞いたら、搭乗の48時間前以内というコロナ抗原検査の条件にもぎりぎりセーフだ。
状況が落ち着くまで日本に滞在することも考えたが、すでに長く家を空けてしまったし、急ぎの大切な用事もあるので、5秒悩んで発券してもらった。
 

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地球カレッジ



 
ロシア上空は避け、韓国〜中国〜トルコ〜ハンガリー〜ブルガリア〜ルーマニアなどの上空を跳びスイスのチューリッヒへ。
所要時間が長くなる分出発時間が2時間以上早められた。
空港送迎乗り合いタクシーも私一人。
運転手は「この状況が続けばうちの会社も厳しいですよ」と苦悩の表情だ。
国は違えど観光業を営む者として、深くうなづいてしまった。
成田空港は濃霧に包まれ、ひと気も少ない。先の見えないこの世界を暗示しているようだった。
戦禍が収まらない限り、フランスに戻っても重苦しい空気に包まれるだろう。
欧州はガスの値上がりが著しいという。
うちはオール電化だった家にわざわざガスを引いてもらって、給湯とキッチンはガスに変えている。
経済的な不安も足取りを重くする。
 

パリ最新情報「3月5日、欧州の上空から」



 
雲海の隙間から、谷間の村落が見える。
ルーマニアの向こうはウクライナ……。
戦火は光溢れる空の上までは届かない。
飛行機の窓に額をくっつけてじっと外を眺めていると、不意にドイツ語で「どうぞ」とやさしい声が聞こえた。
振り返ると背の高いスイス人女性のCAさんがチョコレートを差し出してマスク越しに「いい週末を」と微笑んだ。
そっと寄り添ってくれるような彼女の笑顔と一粒の甘いミルクチョコレートが、私の不安を少し溶かしてくれた。

外は緑濃いなだらかな丘が続くチューリッヒ郊外にさしかかってきた。
夕方17時。
傾いた太陽はまぶしく、春の兆しにあふれている。
喜びに満ちた季節の訪れを、皆と心から祝福できる日が早くきてほしいと空から祈った。(ま)
 

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