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パリ最新情報「仏中部の街オービュッソン、日本アニメの名場面をタペストリーに織る」 Posted on 2023/01/28 Design Stories  

 
中央フランスにある小さな街、オービュッソンは、織物「タペストリー(tapisserie)」で大変有名な場所である。
タペストリーは壁掛けなどに使われる装飾品の一種で、フランスでは中世末期に流行の最盛期を迎えていた。

オービュッソンは人口3300人のこじんまりとした街だ。
しかしタペストリー制作では約600年の歴史を持っており、2009年にはそのノウハウがユネスコ無形文化遺産にも登録されている。
そんなオービュッソンがこの度、日本の名作アニメ「千と千尋の神隠し」のワンシーンを巨大なタペストリーに織り込んだ。
 

パリ最新情報「仏中部の街オービュッソン、日本アニメの名場面をタペストリーに織る」



 
完成式典が行われたのは1月20日、現地の国際タペストリーセンターにて。
タペストリーは、主人公の千尋がカオナシと向き合う宴会のシーンが採用され、高さ3メートル、幅7.5メートルという大規模な作品になっている。
制作には4人の職人が関わっており、2021年〜2022年にかけて丸一年を費やしたそうだ。

このプロジェクトは、オービュッソンの国際タペストリーセンターと、日本のスタジオ・ジブリが正式に結んだ協定のもとに行われている。
実は2021年から始まっており、2024年までには合計4つのジブリ作品がタペストリーに織り込まれる計画だ。
昨年には「もののけ姫」のタペストリーが完成した。
今年の「千と千尋の神隠し」の後には「ハウルの動く城」、さらに「風の谷のナウシカ」からそれぞれ印象的なシーンが選ばれる予定だという。
 

パリ最新情報「仏中部の街オービュッソン、日本アニメの名場面をタペストリーに織る」

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タペストリーの紡織は非常に緻密で、1平方メートルを織るのに200時間〜800時間もかかると言われている。
技術のほかには継続力・忍耐力が絶対的に必要だというが、今回の巨大タペストリーでは糸の配色が難易度を極めたため、職人同士で衝突することも少なからずあったという。(特に陶器の質感を再現するのが難しかった)
 

パリ最新情報「仏中部の街オービュッソン、日本アニメの名場面をタペストリーに織る」

 
またタペストリー制作時には「下絵画家」という専門家も必要になる。
下絵画家は、糸の素材、配色、線の太さなどを含んだ細かい描写を織り手のために描く。
しかもただの画家ではなく、タペストリーの技術面を熟知した非常に専門的な画家でなければならないということだ。
今日ではこうした下絵画家の数も少なくなってきているのだが、タペストリー制作がかつての一大産業だった、フランスならではの職業と言えるだろう。
 

パリ最新情報「仏中部の街オービュッソン、日本アニメの名場面をタペストリーに織る」

※「もののけ姫」作成時の下絵。この後、絵は適度なサイズに拡大され織り手の参考図となった。



 
中世時代、壁掛けのタペストリーは城や住宅(富裕層)の隙間風を防ぐなど、実用的な面も持ち合わせていた。
社会的地位を象徴する調度品としても重宝されたため、オービュッソンの街では15世紀からたくさんの壁掛けタペストリーが制作されていた。
※オービュッソンを流れるクレージュ川の岸辺では、鉱物や土から珍しい顔料が採取できた。そのため豊かな色の表現が可能になり、この地でタペストリー製作が発展した。

オービュッソンには600年の伝統があるが、そこにあぐらをかかず、「古くさいタペストリーのイメージを一掃したい」と国際センター長は述べている。
過去にはJ.R.Rトールキン(指輪物語)財団とのコラボも実現させており、13枚のタペストリーを制作したこともある。
また宮崎駿監督の作品については、「時が経っても輝きを失うことのない名作だから作品にしたかった」と述べており、2024年に続くさらなるタペストリー制作に意欲を見せた。
 

パリ最新情報「仏中部の街オービュッソン、日本アニメの名場面をタペストリーに織る」

 
フランスでは、日本のアニメブームが定着して久しい。
現在の40代半ばくらいのフランス人がその先駆けとなっているのだが、20代30代でも熱狂的なファンは多く、フランスのいろいろな場所で定期的にインスタレーションが行われている。
なお今回のタペストリーは3月末にボルドーのオペラ座、今夏にはパリのケ・ブランリ美術館にて巡回展を行う予定だ。(セ)
 

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