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パリ最新情報「パリ同時多発テロ事件、7年の歳月を経て最終判決が下る」 Posted on 2022/07/07 Design Stories  

 
2015年11月13日。
この日をフランス国民が忘れることはない。
7年前に起きたパリ同時多発テロでは、コンサート会場バタクランを含む数ヵ所がテロ攻撃の対象となり、犠牲者は合計で130人、負傷者は413人に上った。
以来、この同時多発テロはフランスでは11.13事件と呼ばれ、仏史上最悪のテロとして今も多くの人のトラウマとなっている。

実行犯10人のうち9人はその場で死亡が確認された。しかし唯一の生存者であるサラ・アブデスラム被告は事件後逃亡、後に仏警察に捕らえられている。
アブデスラム被告は一部始終を知るただ一人の証人として、長きに渡り調査の対象となってきた。
 

パリ最新情報「パリ同時多発テロ事件、7年の歳月を経て最終判決が下る」



 
アブデスラム被告を含む、テロ関係者20人の裁判が開始したのは2021年9月のことである。
この裁判は、原告1765人、弁護士の総数330人、数百人の記者や傍聴人などが参加する「世紀の裁判」としてフランスでも大きな注目を集めた。

裁判所の場所はパリ・シテ島のパレ・ド・ジュスティス。
フランスはこの裁判のために1年半の改修工事を施している。
パレ・ド・ジュスティスは改装後、550人収容の大法廷、同時中継で公判を見られる12の別室を設け、計2000人の収容を可能としたのである。
フランス国外に住む被害者や家族が公判を聞けるようにとウェブラジオも活用され、公判はすべて録画された。
 

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判決が言い渡されたのは、2022年6月29日の午後8時過ぎだった。
アブデスラム被告には求刑と同じく、減刑不可・仮釈放なしの終身刑という最高刑が言い渡された。
被告は自爆テロ用のベストを作動せず、自ら手を下すのを思いとどまったと主張していたが、裁判長は故障のために作動できなかったと判断。
また被告はテロ準備に能動的に関わっており、一連の事件の共謀者であると断定された。
これは1980年に死刑制度を廃止した現フランスで最も重い刑罰となる。
過去40年間では、終身刑は4例しか言い渡されていないのだ。
 

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被害者の家族は「10ヶ月間、この裁判が私の生活のリズムだった。朝起きるモチベーションになった。結果に満足している」と語り、今回の判決結果に安堵しているという。
一方、「最も重い罰」についてフランス国内では一部議論が上がっている。
それは、死刑の是非についてだ。
現在、マクロン大統領は死刑廃止に向けて世界に働きかけており、「死刑によって凶悪な犯罪が後退することは決してない」と言明している。
しかし世論はどうか。
Le Monde紙が2013年から毎年行っている調査では、死刑制度復活に賛成と答えた人の割合が9年前に調査が始まって以来、最高の55%に達したことが明らかになっている。

Le Monde紙はこれを「社会不安が背景にある」と指摘する。
同時多発テロ事件をきっかけに、コロナ不安、移民の増加などがバックグラウンドにあり、さらには税金が終身刑に使われることを不満に思う国民もいるとのことだ。

事実、フランス極右勢力は伝統的に死刑復活を要求している。
テロ後には反イスラムや移民排斥を訴え支持率を急速に伸ばすなど、極右が社会に大きな影響を与えたのは記憶に新しい。
テロの本当の目的とは、もしかしたらこうした社会分断にあるのではないだろうか。
重罰については高校や大学でもいまだにディベートの対象となっている。
そういったことも含め、今回の裁判は仏国内で非常に大きな注目を集めた。(オ)
 

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