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パリ最新情報「低温殺菌法を生み出したフランスの偉人パスツール、生誕200年を迎える。」 Posted on 2022/12/28 Design Stories  

 
「パスツール研究所」の創設者として有名なルイ・パスツールが、12月27日で生誕200周年を迎えた。
パスツールはフランスで微生物界のコロンブス、とも呼ばれている。彼の功績は非常に大きなもので、狂犬病の予防接種や牛乳の低温殺菌法など、世界の人々の暮らしに多大な影響を及ぼした。
フランスではこの日、ささやかながら各地で祝賀行事が開かれており、パスツールが生前関係した大学などがその功績を称えたインタビューを行っている。
 

パリ最新情報「低温殺菌法を生み出したフランスの偉人パスツール、生誕200年を迎える。」



 
ルイ・パスツールは1822年12月27日、アルザス地方で皮なめし職人の息子として生を受けた。
学生時代の成績は意外にも「並」だったというが、研究を重ねその後はストラスブール大学やリール大学の教授に就き、様々な成果を残している。
彼の最初の大きな発見は、私たちの生活に今なお関係している「低温殺菌法」であると言える。
風味をそのままに、美味しい牛乳やワインが飲めるのは実はパスツールの功績によるものだった。

19世紀半ばのフランスではすでにワインの輸出が活発に行われていた。
しかし輸出国に到達すると、ワインの劣化が激しいという問題が多く寄せられるようになる。
そこでパスツールは、フランスのアルコール製造業者から「ワインの腐敗原因を調べてほしい」という依頼を受けた。
 

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後に研究を重ねたパスツールは、劣化の原因は微生物によるものだと発見する。(チーズやビール造りも微生物による発酵の産物であることは当時ではまだ知られていなかった)
この結果から、彼はワインの劣化を防ぐにはボトルの中の微生物を死滅させれば良い、と考えたのだ。

こうしてパスツールはワインの風味を落とさない程度の温度、55〜60度で湯煎し、微生物を殺菌させる方法「低温殺菌法」を生み出す。
そうすることで風味やアルコール分を飛ばさずに、微生物を死滅させる殺菌という方法に成功したのであった。
ちなみにフランス語では低温殺菌法を「Pasteurisé(パストリゼ)」と言うのだが、これはもちろんパスツールの名に由来している。
 

パリ最新情報「低温殺菌法を生み出したフランスの偉人パスツール、生誕200年を迎える。」

※パスツールは「世界中の書物よりもワインボトルの中により深い哲学がある」という明言を残した。



 
低温殺菌法はワインだけではなく牛乳にも使用された。
そしてこの功績はパスツールを生物学、特に微生物学の研究に向かわせる契機となる。
またこの時期、フランスではたくさんの蚕が謎の病気にかかり死滅するという事態が起こっていた。
当時の縫製業はフランスを代表する産業。
そのため蚕は絹の原料となる糸を出す生物として、仏国内で大変重宝されていたのだ。
パスツールは研究に5年を費やし、蚕の病気の原因となる細菌感染を発見した上で予防法を突き止めた。
こうして彼はフランスの重要な産業を救ったとして人々から英雄視されるようになった。

その後は狂犬病の予防接種、ニワトリコレラワクチンなどを発明し、フランス国内では「19世紀の最も恐るべき科学革命の原動力となった人物」と呼ばれ称えられている。
一方で、モンペリエ大学の医学部名誉教授、ジャン=ピエール・デデ氏は、パスツールのことを「自分の持論を追求するため、彼は躊躇なくフランスを横断して原因を探し求めた。疲れ知らずで情熱的な人物だった」と語る。余りあるパスツールの功績は、そのタフで完璧主義な性格によるものだと振り返った。

ワイン造りに革命を起こし、伝染病と細菌の関係を明らかにするなど、後世に語り継がれる功績を残したルイ・パスツール。
72歳で研究中に倒れると、仏政府の要望で国葬が行われ、遺体は栄誉あるノートルダム大聖堂の地下に埋葬された。(その後パスツール研究所の地下聖堂に改葬)
なおパスツール研究所はエイズウィルスなども発見しており、これまでに10個のノーベル賞を受賞、フランスで最も権威ある研究機関として今もパリ中心部に存在している。(オ)
 

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