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リサイクル・父ちゃんの料理教室「息子よ、なんで返事しない?ノルマンディ風チキンクリーム」 Posted on 2023/09/05 辻 仁成 作家 パリ

※ 3年ほど前に書いたものですが、秋の始まりだし、茸の季節もこれからなので、リサイクルいたします。で、輸入ジロール茸はあるけど、ちょっと高めなので、ヒラタケとかでも大丈夫ですよ。

息子にものを頼みづらい。
「醤油とって」と言うと、とって来てはくれるけど、なんだか面倒くさそう。
なので、買い物とかは頼めないし、頼めばやるのだけど、そこまでの間に、相当気力と時間を使うので、マジ、面倒くさいから自分でやってしまう。
いつからそうなったのか、そうさせてしまったのかは覚えてないけど、成長とともに、だんだん無口になって来て、でも、自分が何かお願いしたい時だけは柔らかい笑みを浮かべ、ちょっといいかな、とすり寄ってきたりもする。やれやれ。
でも、声をかけられて嬉しいので、ほいほい、と対応してしまうのがいけないのかなぁ。自分の用事が解決すると、再び不機嫌に戻ってしまう。
この野郎と思いませんか?



「それが普通よ」
だいたい、世のママ友たちはこのようなことを言うけれど、二人家族なので、ストレスのしわ寄せは、全部ぼくに向けられる。
「辻さんのお子さんは、フランス語で考えているので、一度、翻訳作業があるから、日本語に反応を返すのはそれなりに億劫なんだと思いますよ」
「わかりますけど、かといって、パパが下手なフランス語話すのも嫌みたいなんです」「まず、仏語の勉強頑張りましょう!」
「ぎゃふん」

そんなぼくらを繋いでいるのは「料理」かもしれない。
たしかに、彼は料理をすることに興味を持っていて、ぼくが先日も心を癒す一人旅に出ていた間も、ちゃんと自炊していた。
冷蔵庫を確認すると、冷凍の魚や、牛のひき肉、長ネギ、レタスや卵などの使われた痕跡があった。
もちろん、カップ麺も消えていたけど、カップ麺には冷凍の餃子やシュウマイを解凍して食べた形跡があった。
料理自体は苦じゃないみたいで、だから、息子のための料理教室を始めたのだけど、大人しく横にいたのは最初だけ…、笑。
「ご飯だよ」
と呼ばないと出てこなくなった。
あ、この「ご飯だよ」コールも、実に不機嫌な返事をする。

何回か、言っても返事がないので、部屋の中まで行き、ごはんって言ってるの聞こえないのか? と叱ると、パパ、聞こえてるよ、と逆切れされる。だったら、返事しろよ、と言うと、だって、一番大事なところを勉強中なのに、ちょっと待ってくれても腐らないでしょ、と来た。勉強してるというと、全てが解決すると思ってるに違いない。

なので最近は、一度だけ、「ご飯」と言いに行き、先に食べてしまうことにしている。
かまうものか!
冷や飯を食うか温かい飯を食べるかは、自分の責任ということだ。
温かいのを食べたければ電子レンジでチンするだろう。親としては、出来立ての一番美味しいところを食べて貰いたいところだけど、まあ、文句言われてまで推奨は出来ません。
ということで、冬休みがはじまったらしく、コロナ感染再拡大中だし、家の中で、でかいのが、ごろごろしている。うざいわ~。
息子に、ごはん作るけど、やるか? と訊いてみたら、明後日の方角を見られてしまった。
こんちくしょーめ、もう、教えてやらない。



ぼくはパリから2,3時間で行くことの出来るノルマンディやブルターニュを旅する(逃避)のが好き。
ノルマンディなどは山と海に囲まれた一帯なので、もちろん魚貝が豊富だけど、同時に肉もうまい。
特徴としては生クリームを使う。今日は新鮮なジロール茸が手に入ったのでソテーにして、クリームソースにする。
肉のソテーのキノコのクリームソースをがけ、だね。
これがうまいんだ。ね? と息子に言ったところで返事は戻ってこないけどね。

最近、ジロールは日本でも手に入るようになった。
もし、探せない場合は焦らないで、マイタケでやってみて。
触感はなんとなく似ている。香りが違うけど、マイタケでもかなり美味しい。孔子肉は日本だと見つけにくいので、鳥の胸肉とかで大丈夫!!

リサイクル・父ちゃんの料理教室「息子よ、なんで返事しない?ノルマンディ風チキンクリーム」

リサイクル・父ちゃんの料理教室「息子よ、なんで返事しない?ノルマンディ風チキンクリーム」



まず、肉をラップで包み、めん棒などで叩いて軽く伸ばすところからこの料理は始まる。
結構、野蛮なんだけど、ようは繊維を細かく断ち切っていくことで触感が変わる。
これ、ノルマンディの知り合いのお母さんから教わった。
ぼくは麺棒じゃなくて、ゴムの大きな金づちを使うことも、腹が立ってる時はげんこつの時もある、笑。
ボンボンボンと叩いて、平たく伸ばすんだ。
これをフリットにしても美味いからね、辻家の鳥カツはだから平べったい。
覚えておいて!

リサイクル・父ちゃんの料理教室「息子よ、なんで返事しない?ノルマンディ風チキンクリーム」

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リサイクル・父ちゃんの料理教室「息子よ、なんで返事しない?ノルマンディ風チキンクリーム」

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じゃあ、よく熱したフライパンにオリーブオイルをひいて、塩・こしょうした肉をソテーしよう。強火で、両面焼き色がついたら一度皿に取り出す。
あとで煮るのでさっと焼き色がつけばOKだよ。
必ず使い終わったフライパンをそのまま使うからね。
みじん切りにしたエシャロットとキノコを炒めるんだ。しんなりしたら白ワインを加え、アルコール分をとばす。
さらに生クリームと塩・こしょうを加えて、ソースを作っちゃえ。
そこに肉を戻し(肉汁も一緒に)、3分ほど煮込んだら蓋をして、一度、火からおろし、5分休ませる。
これで、完成だ!
皿に盛り付け、ご飯やパスタを添えるんだけど、今日はパパの好物の玄米を載せて頂くことにしよう。
「ご飯だよ~! ご飯、ご飯ご飯、出来立てだぞ~」
「分かってるよ!」
「ぎゃふん」

リサイクル・父ちゃんの料理教室「息子よ、なんで返事しない?ノルマンディ風チキンクリーム」

材料、二人前。
仔牛の薄切り肉 2枚
または鶏胸肉  1枚(鶏胸肉の場合は皮をとり、厚さを半分にする)
ま、でも、お好きなだけ、どうぞ!
エシャロット  1~2個
きのこ     150g(ジロールまたはヒラタケなど)
白ワイン    大さじ4
生クリーム   大さじ4
オリーブオイル 大さじ2
塩・こしょう  適量
バター     15g程度(お好みで)



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