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滞仏日記「息子が10歳の時にブロックした連中の共通点」 Posted on 2021/03/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、これは先の日記にちょっと書いたことだけど、今日はその続きである。
ぼくが離婚をした直後、ぼくはマスコミとかいわゆる芸能メディアにボコボコにされた。
とてもぼくが発言出来る状況下にはなくて、サンドバックみたいに叩かれた。
ぼくにももちろん非はあるとは思うけど、何も言えないような凄まじい状態だった。
昨今の日本から届くどうでもいいニュースを見ていると、そんなのばかりで、日本がマジ心配になる。
マスコミの弱い者いじめは酷すぎないか?
そこまでしなくてもいいんじゃないの、と思うし、なんで権力者にはマスコミって弱いのだろう、と思うのは、ぼくだけ?
日本は結構特殊な報道の環境の中にあるけど、それは報道だけじゃない。



で、ぼくは先月もちょっと書いたけど、芸能マスコミに言われなき報道暴力を受けていた時、ぼくの味方は息子だけだった。
ぼくがいつも家に招いたり、ご馳走したり、結婚や仕事のことなどの悩みにいつも答えてあげていたような連中の裏切りが実に酷かった。
風を読むというけれど、見事にみんな風を読みこんで、離れて行った。
僕に人を見る目がなかったのだろうねぇ。
兄貴とか先輩とか師匠とか胡麻すって、うちにやってきて、美味しいものをたらふく食べて、今思えば本当にどうでもいい連中ばかりだったけど、その人たちのほとんどが、のちに、面白おかしくメディアにあることないこと喋って、ぼくを地の底に叩き落すのだから、あ痛たた。
その時に、息子だけが彼らの本心を見抜いていたのだ。
その人たちは、息子のインスタとか、メールとか、ツイッターとかにメッセージを送り、
「パパはどうしているの? 教えて」
「あんなひどいパパの傍にいない方がいいよ」
「なんでパパのこと信じるの?」
「パパの最近を教えて」
と焚きつけていたのである。
そうとも知らないぼくは、この連中を信じていたのだから、いやはや、お人よしにもほどがある。



「ぼくは全員、ブロックしたよ。パパは、目を覚ますべきだよ。パパはタカラれ、ご馳走しまくり、悩み相談や仕事をまわして、あっさり裏切られ、この人たちはパパとぼくを引き裂こうとしたんだ」

実はなんで、このことを書いたかというと、今日、その一人からぼくのところにメッセージが入った。
「あれはぼくのことですか? ぼくは辻さんを裏切ったりはしていませんし、ブロックされる覚えもないです。その誤解をはらさせてください」
なんのことかよくわからなかったのだけど、先月、息子がブロックした人間が複数人いることを書いた。
きっとそれを読んだのだろう。心当たりがあるのに違いない。
息子が何を基準に、この人をブロックしたのかわからなかったので、今日、夕食の時間に、・・君から連絡きたけど、なんで、ブロックしたの、と訊いてみた。
息子はくすっと笑って、
「パパ、そんなくだらないことに答えたくない。その人や、ぼくがあの頃、ブロックした人たちは、当時、ぼくが訊きたくないことばかり聞いてきたし、パパに対して恩を忘れた行動だと思ったし、だいたい、自分の胸に聞いてみたらいいんじゃないの? 」
とだけ言った。
息子が彼らをブロックしたのは、彼が10歳の時のことだ。17歳の息子からすると大昔の記憶である。



想像するに、当時の芸能メディアと一緒で、ぼくを息子から引き離そうとしたかったのだろう。
なんかの理由で…。
ヘアメイクさんやデザイナー、広告代理店の人、音楽関係者など、だいたい、そういう連中だった。
よく家に来て、 弟分、妹分のような振る舞いをしていたおしゃれな仕事の人たちだったから、風見鶏的なスタンスは想像もつく。
でも、息子は容赦なかったし、彼はもはや、記憶からも消しているような感じで、話題にもしなかった。
彼らはどうしているかな、と言った話しの流れで、彼はブロックしたことを白状したのだ。
それで、ぼくはブロックされた奴に、もう一度、こういう返事を返しておいた。
「ぼくらは幸せだよ。あなたも幸せでいてください」



ぼくは日本を離れて長いので、日本の芸能ごとはニュースで読む程度しか知らない。
それにしても、なんで、他人の下ネタみたいな騒動にばかりこんなにページが割かれるのかな、と不思議でならない。
読む人がいるから配信するのだろうけど、たとえば、不倫は本当によくないことだと思うけど、謝罪し、再起をかけて頑張ってる人をいまだにおいかけて、犯罪とまでは言えないのに、ここまで叩き続ける病的な意味が今一つわからない。フランスではありえない。
ダメだと思うなら、もう見なきゃいいんじゃないの?
社会的制裁を受けているのであれば、その人も生きているので、家族もいるのだから、お子さんが可哀そうと煽ってるメディアの報道だって子供たちも知るわけで、めちゃくちゃな倫理観じゃないのか? 
なにより、問題は夫婦の問題なのに、そこまで他人が叩く必要や権利があるの? 
なのに、政治とか権力組織には非常に甘くて、自分たちのスポンサーなんかがそこに関係していると、もう見て見ぬふり、信念がなさすぎるし、言った舌の根が乾かないうちに、逃げ出すし、弱腰極まりない。
ま、関係ないことだけど、息子にブロックされるような輩もそんなところだ。



「辻さん、よかった。じゃあ、また、遊んでください。パリに行くことがあったら、必ず、連絡をしますので。よろしくお願いします」
 ぼくは笑いながら、風見鶏君のメールを閉じた。
 言っとくけど、ぼくらは十分に幸せだから、パリに来ても、どうぞ、関わらないでください。さようなら。

滞仏日記「息子が10歳の時にブロックした連中の共通点」



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