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滞仏日記「投票します、俳優さんらの動画呼びかけ。父ちゃんも選挙へGO」 Posted on 2021/10/22 辻 仁成 作家 パリ

地球カレッジ

某月某日、「投票します」という俳優やクリエーターの方々が作った動画がネットで話題になっている。へー、面白い動きだな、と思った。
自分たちにできる第一歩がこれ、というメッセージを送ることは別に普通にいいことだと思う。
ケチつけている方がいたけど、ま、それも自由だが、なんでも文句は出るので、気にせずやってもらいたい、と62歳の父ちゃんは思った。
海外在住の日本人も選挙に行き、投票することが出来るが、「在外選挙人証」というものを予め、申請してないと出来ない。
ぼくの友人に政治批判大好き人間がいるけど、選挙には行かないし、よって、選挙人証は持ってない。
「日本は終わりだ、もうあかん」と叫んでいるだけで、行ってから批判したらいいのになぁ、と思うけど、これも人それぞれだから、ま、しょうがないけど、政治に意識があっても、行かない人がいる限り、幅広い民意は反映されないので、ならばあまり文句言えないよね、ということである。

滞仏日記「投票します、俳優さんらの動画呼びかけ。父ちゃんも選挙へGO」



申請をすると証明書の発行までにだいたい三か月くらいかかるので、今回のような急な選挙だと7月頭に申請しないと選挙が出来ないことになる。
なので、在外日本人の皆さんはいざという時のために前もって、選挙人証を確保しておかれるのがいいだろう。人生は長いので・・・。
ぼくも渡仏間もない頃は、行かなきゃ、という時に行けなくて、悔しい思いをしたが、こういうことは時間のある時に、申請をしておけば、慌てなくて済む。

パリの場合、日本大使館の中にある講堂が、投票場であった。
まず、広い受付があり、スタッフの方が、一人一人に寄り添い、手順を教えてくれる。懇切丁寧であった。
日本を出る前の最終居住地がぼくの選挙区になるのだが、今年から、それが多少変更になっていて、ぼくがどの選挙区でやるのか、うやむやだったために、それを係りの人が一緒に悩んでくれて、
「あの、せっかく投票をしても、選挙区を間違えると貴重な一票を無駄にしてしまうことになりますから、なんとか思い出してください」
とこんなに丁寧に指導してくださったのだ、感動である。貴重な一票、ほんとうにそうだね。



結局、最後に住んでいたマンションの近くの蕎麦屋の名前を思い出し、選挙区が特定できたという父ちゃん、
「次回のために、ポストイットとかに書いて選挙人証に貼っとくといいですよ」
と若い係官さんに言われ、日本人は優しい、と思わず、目頭を押さえて・・・。
※選挙区がわからなくなってしまった場合は、選挙人証の再交付を在仏日本大使館で申請し、新しい選挙区が記載された選挙人証の送付を選挙管理委員会に依頼するのがもっとも間違いない方法とのこと。

それから、講堂に入ると中央に受付、奥の壁沿いにブースが並んでおり、左手に受領係の席があった。
まず、受付で、選挙の封筒をもらい、ここでも、細かく、書き方などの説明をしてもらい、個々のブースに行き、ぼくは小選挙区と比例区の用紙にそれぞれ記入し、封をして、受領係に持っていった。
再度、受領係さんによる確認があり、その後、日本の各選挙区へ送る封筒に入れてくださり、再度封をし、金庫におさめた。金庫っーーー!!!
手提げ金庫の中には、びっしりと投票の封筒が詰まっていたのだ。もしかして、投票率高いんじゃないか、と思った父ちゃんであった。
講堂を見回すと、木曜日の午前11時だというのに、十数人の人が投票用紙と向き合っていたのである。

日本大使館を後にし、一仕事終えて気分のあがったぼくはオペラ地区へと向かった。
オペラ地区は、かつて、日本人街などと呼ばれた場所で、多くの日系企業のオフィスやレストランやバーやカラオケ屋があって、賑わっていたが、今は、日本人を見なくなった。
日本人かな、と思うと、中国や韓国の方々で、日本語が聞こえてこない。
いまだ、オペラで頑張っている日系企業の人に話しを訊くと、ビジネスマンはコロナ以前から、大撤退をして、もうほとんどいません、寂しいですよ、というのである。
ぼくが渡仏した頃、シャルルドゴール空港から市内に入るまでの道の左右はすべて日本企業の広告看板だったが、今は・・・、姿を消した。
時代はかわるものだから仕方ないけど、やっぱり、ちょっと寂しいなぁ・・・。
ぼくがはじめた「日本祭り」はこういう時代だからこそ、本当の日本の面白さを、フランスで発信していきたいのである。
日本関係のフェスティバルはいろいろとあるけど、ほとんど漫画関係だし、日本人がやってない。
ここは在仏の日本人を中心に、フランス人や外国人の力を借りて、何か面白い動きが出来ると元気が出るんだけどなぁ、と相変わらず変なことを考えるおじさんなのである。

そういうことを考えながら、野田岩さんで、うな丼を食べた。
日本のお客さんが1割、残りは全部フランス人か外国人観光客の方々であった。
もちろん、満席で、皆さん、美味しい美味しい、と食べていた。
今日はアイルランド産の鰻だったが、丁寧に作られた上品な味わいであった。
日本酒をおちょこで飲み、ちょっと贅沢な時間を過ごした父ちゃん。
将来、どんな日本になるのだろう、と遠い祖国を想いながら、味わったうな丼、美味かったぁ・・・・。

つづく。

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