JINSEI STORIES

タイムマシーン・リサイクル日記「実現できないような夢だからこそ、みんなに言いふらすことで扉が開く?」 Posted on 2023/04/22 辻 仁成 作家 パリ

注意書き。
以下の日記は2021年の11月5日に書かれたものである。たまたま読み返して、大笑いをし、そのあと、笑えなくなった。あの時は、夢の夢だったのに、と不思議でならない。こうやって、日記で書き続けてきたことに意味があったのだろうか? タイトルも当時のままなのだけど、いったい、どこに自信があったのだろう・・・どおんな??? 向こう見ず過ぎる男の独白・・・
ぜひ、一読して頂きたい。

某月某日、人生はいろいろとある。
ぼくはここのところ、自分がいったい今、本当に何をやりたいのか、どうなりたいのか、どういう表現者でいたいのか、と自問自答を繰り返している。
そのせいで昨夜は眠れず、真夜中、宮川さんに戴いた「神の河」を舐めながら、ずっと考え込んでいた。
ぼくは悩みすぎて眠れなかったのだった。
日曜日のライブの時に、とある人が現れて「辻さんはオランピア劇場でライブをやるべきだ」と言い出した。
音楽業界の方とマコちゃんに紹介された。
「絶対、出来ます。やる気にならないとそんなものはできない」とその熱意のある初対面のムッシュは言った。
その周辺にいた人たちが、あわせるように、「なんでフランス人に向けてやらないのですか。世界に向けて、もっとやりましょうよ」と言い出した。
「いや、ぼく、友だち少ないから」と言い訳をしたのだけど、その初対面の紳士は、「オランピアを満席にしましょう。辻仁成のオランピアの道のはじまりです」と説得され、不覚にもその気になってしまった父ちゃん、大笑い。

タイムマシーン・リサイクル日記「実現できないような夢だからこそ、みんなに言いふらすことで扉が開く?」

※これは息子につくったペストのパスタなり。



オランピア劇場というのは、フランスの音楽史における歴史的会場で、エディット・ピアフも、ビートルズも、ストーンズも、マドンナも、スティングも、みんなそこで歌っている。
そこに立つことがアーティンストにとっては夢であり、栄誉のような、そんなコンサート会場なのだ。笑えるでしょ???
でも、確かに、いつかそこでライブをやりたいな、と思って20年前に渡仏したのは、確かなのだ。そうだ、それが若い頃の夢であった。
不意に、それだ、それだった、それが自分の夢だったじゃないか、と思いだしてしまった、おバカな父ちゃん。←その紳士のせいじゃない、ぼくはバカなんですよ。
でも、その初対面の紳士と昨日、ルテシアホテルでお茶をしたのだけど、残念なことに、その人はプロモーターではなかったことが判明したのである。
フランスは、日本と違い、プロモーターじゃないと大きなライブはし掛けられない。
しかし、その初対面の人にはっぱかけられたことで、勝手に、俄然やる気になってしまったのである。
そして、眠れなくなり、昨夜、知人たちに、やるから、力を貸してくれて、とメールを打ちまくってしまった、酔った勢いで・・・。←心配になるくらいの、おバカちゃん?
で、朝、起きたら、数少ない仲間たちから「やったれー」「やりましょう」と返事が入っていて、青ざめたという次第である。
キャパが2000人を超える会場。規模的にはオーチャードホールに匹敵する大きさの伝統あるコンサート会場で、何者かわからない日本のシングルファザーが、はいそうですか、と立てるような場所ではない。
七年前に「アルハンブラ」という、600人規模の会場で単独ライブをやったことはあるけど、その時も半分さえも、埋まらなかった。
ちょっと考えればわかることなのに、やる気になって、盛り上がったのはいいけど、現実的なことをいろいろと考えたら、無理だろ、となるのが当然で、だからか、今日は朝から、くらーーーい一日になってしまった。あはは。
ああ、なんて、あちしは、おバカちゃんなの? 悔しいじゃないのー。

タイムマシーン・リサイクル日記「実現できないような夢だからこそ、みんなに言いふらすことで扉が開く?」



それでも、メッセージを送った人たちの中に、「いや、辻さん、私も思ってました。オランピアじゃないとダメですか? まず、フランス人の音楽ファンに向けて、もっと音楽を発信してください。小さなライブハウスを一つ一つ潰して、人を集めましょう。年齢なんか関係ないし、やる気だけですよ。絶対、辻さんの音楽は人々の心をつかみますから」と言ってくれた人がいたのだ。
現実の壁の前で呆然としていたシングルおやじだったけれど、本当に、おバカちゃんなのだなぁ、と思ったのは、こういう励ましに単純にすがってしまうこと。
再びやる気が出てきて、もっと世界中の人に自分の音楽を届けなきゃ、と思い直すのだった。
それで、先月のMCJPでのライブ映像をHDから引っ張りだし、インストのMATSURIという最新曲がいいだろう、と勝手に思い込み、なぜか、午後、編集をはじめた・・・。←単純なことって、人を救いますね、、、
つまり、まず、映像をもっともっと作って、あっちこっちの人にバンバン見せなきゃ、話しもはじまらない。
「座っているだけで、夢が叶うのかひとなり」とぼくはぼくを叱咤激励する。
それだけじゃない、昔やったことのあるライブハウスにメッセージを書いて送ったし、(返事はないけど)、フランスのレコード会社(ワグラムレコード!)にもサイトからメッセージを送った父ちゃん、(返事はないけど)、みんなに送った、かたっぱしから、(みんな、返事なし…)。
「もうすぐ、あなたの目の前に日本からやってきた凄いアーティストが登場します、ふふふ、これは予告です。首を長くして待っていてほしい」という仏語のメッセージなのだけど、もしかしたら、こういうことをやっている人って他に、いるだろうか? 
はーい。ここにいます。((´∀`))ケラケラ・・・
そうこうしていると、仙台の大阿闍梨住職から、「うちの境内でぜひ、来春にライブやってください」というメッセージが届いたので、もしや、と思ってラインを見たら、昨夜、住職にまでメッセージを送り付けていたのである。ドイツで指揮者をやっている知人のキンボー・イシイ氏からも、連絡があり、「辻さん、じゃあ、一緒にストラヴィンスキーの兵士の物語をやりましょうよ」と・・・。す、ストラヴィンスキー・・・。彼にまで、ラインしてたんか・・・
いやはや、ぼくはいったい何様だ?



でも、オランピアから始まった情熱の発露が、なぜか、先ほど、熱意ある知人(先日のライブでやはり初めてお会いした人なんですけど)を介して、マレ地区の見ず知らずのカフェ?のオーナーに届いてしまい、ケリーさんというのだけど、「会いましょう」という返事が来たので、来週、さっそく一つアポがとれてしまった。
もちろん、オランピアとは程遠い、小さな小さな30人程度で満席にあるカフェ? お茶屋さん・・・。
そこがどんな場所かあまり知らないのだけど、音楽やアートの好きなフランス人のたまり場らしい。
左岸から出ない出不精の父ちゃんにとっては、オランピアへ向かう小さな一歩なのだろうか? ←オランピアも右岸にあった、右岸繋がりだぁ・・・。
というか、父ちゃんは大丈夫なんだろうか? 
でも、昔、エッフェル塔の近くで暮らしていた時、幼かった息子に、「パパ、夢はいつまで、持つことが出来るの? 何個持つことが出来るの?」と聞かれたことがあった。
「人間は何個でも夢を持ち続けることが出来るんだよ。人間に不可能はないんだよ。不可能ってのは、その人が諦めた時にやってくる状態なんだよ」
と言ったものである、えへへ。←たぶん、それは確かだろう。
少なくとも、あれから10年が過ぎた。
ぼくはまだ、走り続けようとしている。
オランピアって、劇場の前に、アーティストの名前がでかでかと張り出されるのだけど、この前、そこの前を車で通過した時、「JINSEI TSUJI」という文字が、そこに、ぼくには見えたんだよね・・・。
こうやって、夢を活字にしないと・・・。あちし、がんばるのだ。

つづく。

タイムマシーン・リサイクル日記「実現できないような夢だからこそ、みんなに言いふらすことで扉が開く?」

※これは自分につくった、ガルシア風蛸のパスタなり。



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