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滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」 Posted on 2022/01/13 辻 仁成 作家 パリ

(注。息子よ、この日記だけは読むな。悪いこと言わないから、読まないように。いひひ)
某月某日、昨日、息子と二人で料理をつつきながら、ちょっと、訊いてみた。
「あのさ、誕生日なんだけど、何か記念に残るものをあげたいんだけどなァ」
「いいよ。無理しないで」
「でも、18歳は一生に一度だし、成人になるわけじゃん。いつか、これ、父さんに貰ったな、という想い出に残るもの、大事にしてもらえるものをプレゼントしたい。明日、時間があるから買いに行ってみる」
ちょっと首をかしげて、考えている息子。
仏人シェフの星付きレストランを予約したのだけど、たこ焼きがいい、と断られた。
まァ、それはいいとして、小学校の5年生から今日までの二人三脚の日々の記念品は絶対に必要だ、と思っていた。
本人がいらないといっても、万年筆とか、時計とか、一生そばに置いとけるようなものがいいだろうな、と思った。
「時計とか、名前が彫られた万年筆とか」
「うーん、時間は携帯でわかるし、名前入り万年筆って・・・」
あはは、と笑いあう二人。
「じゃあ、普段、自分では買えないような一生着られるようなジャケットとか」
顔を上げた息子。
「君が背伸びしても自分では買えないようなブランドの服、とか?」
「そうだね」
お、脈があった。
「スーツとか」
「それは会社員になった時だよね」
あはは、と笑いあう二人。
「ブランドとか知ってるの? シャネルとかグッチとかイブサンローランとか」
「そんな高級なものパパ、いいの?」
「いや、いや、ええと、そうだね・・・」
あはは、と笑いあう二人。



「ブランドって言い方はよくないけど、仕立てのいい服だよ。大事に作られて、十年、二十年、なんなら一生着ても、破れたりしない、上等な服だったら、どこでもいいよ」
「じゃあ、英国の服がいいな」
「しゃれおつなこと言うねぇ。知ってんの英国のブランド」
慌てて、父ちゃん、考えたけど、思いつかなかった。
「一つ、大人になったら、着てみたい洋服ブランドが英国にあるけど、あれ、ブランドなのかな?」
「なに?」
「バーバリー」
「ああ、あれね。あ、そうだねよ。バーバリーって、どういうスペルだっけ?」
テーブルの下で、検索する父ちゃん。本社所在地、イギリス、と出てきた。
「英国に間違いない。それは素晴らしいブランドだと思う」
実は父ちゃん、買ったことがない。
でも、バーバリー・チェックはとっても有名だ。
確かに、それは素晴らしいアイデアかもしれない。
おかずを摘まむふりをして、テーブルの下で携帯を動かし、ウイキペディアを読んだ。
極地探検家の防寒着やパイロットの衣料品からはじまり、南極点を目指したアムンセンもスコットもこの防寒着やテントを愛用したのだ、と書かれてあった。これはすごい。まさに、父ちゃんが18歳の息子にプレゼントしたい服じゃないか・・・。
「わかった。それがよろしい。じゃあ、どういうのが欲しいか、一緒にネットで調べてみようか」
サクサクと検索する息子・・・。早っ。買う気満々やん。
「あ、でも、パパ、めっちゃ高いよ」
「いいよ。でも、どのくらい・・・」
ちらっと見たら、作家が気楽に買えるような値段じゃなかった。ほえ~。
でも、顔に出さず、一緒に検索をしながら、安い方へ安い方へと誘導していく父。それを察知したのか、
「パパ、このバーバリー・チェックのマフラーがいいな」
と親の財布の心配までした息子であった。けなげ・・・

滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」



で、今日、息子が学校に出た後、父ちゃんは、ネットでバーバリーを検索したら、左岸にはなくて(実はボンマルシェにありました)、右岸まで出かけることに・・・。
サントノーレの路面店に最初行ったら、改装工事中で閉まっていた。
なので、総合デパートへ。プランタンとラファイエットの中にメンズがあったのだ。
「ボンジュール」
背の高いお姉さんに声をかけた。
息子の18歳の誕生日に、バーバリーのジャケットをプレゼントしたいんですけど、ありますかね、と訊いた。
どういうものがいいですか、と言われたので、息子が、こういうのがいいな、と指さしたものを見せたら、人気商品らしく、ちょうどいいサイズがなかった。
ちょっと安心をした父ちゃん。え?
いや、買えるけど、ないんじゃ買えないじゃんねぇ・・・。
バーバリー・チェックのマフラーはいっぱい並んでいる。
「でも、そんな高級なものじゃなくてもいいんです。18歳ですからね。その、彼は明後日、成人になります。バーバリーを着れる年齢ですよね?」
「クラフトマンシップのある製品ですから、長持ちしますし、流行に左右されません。一生もので、お父さんのお気持ちが届くと思いますよ」
くー―――。姉さん、あんた、涙誘うねぇ。心がちょちょ切れそうや・・・。

滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」

※ 試着中の父ちゃん。これは自分が欲しいなァ、と思ったジャケット。誰か、ください・・・、笑。

滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」

※ お店は広くて、感じが良かった・・・。ちなみに、これはバーバリーではなく、私服・・・



そこから、試着大会が始まった。
なんと、ぼくが試着をしたのは、ジャケット4着。背の高いお姉さんにもついでに着てもらい、息子のサイズ感を説明した。
「身長、175センチ。毎晩、ごはん三膳食べます(関係ないし、三膳、パリジェンヌに通じないし・・・)。中学高校のバレーボールのパリ大会で金・銀・銅メダルとりました。肩幅すごいです。ぼくが小さい頃、鬼コーチやって、育て上げました(自慢大会少々・・・)」
「うわ、かなりのスポーツマンですね。がっちりしているんですか?」
写真を見せた父ちゃん。
「きゃあ、可愛い。モテるんでしょうね? エキゾチック! 目がかっこいいわ」
「あのね、ぼくを見てください。モテないわけがないでしょ?」
あはは、と笑いあう二人。
姉さん、笑い過ぎやろ!!!

滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」



なんだかんだ、1時間半、その方にいろいろとアドバイスをもらい、試着を繰り返し、裏地にカシミアが使われている、黒いジャケットを買った。
結局、お姉さんが、息子の音楽まで聴いてファンになってしまい、これしかありません、と言い出したので、仕方がない。
息子が欲しいといったジャケットよりも高かったけれど、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、買った。
この日記で、ぼくはいったい何度、清水の舞台から飛び降りたことであろう。
でも、なんとなく、これで18歳の誕生日を迎えさせてやることが出来る。
17歳は喧々諤々な仲だったが、大学受験も目の前まで迫り、ここからはどんな結果になろうと、彼は成人として、社会に出ていかないとならない。立派なことである。

滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」

買ったプレゼントは14日まで寝室に隠しておくことにした。
すると、夕方、ぴんぽん。
「どなた?」
「あまぞーん」
お、またか。荷物を取りに階段をおりたら、三四郎のおしっこボックスであった。
巣立っていく息子にバーバリー。そして、うちにやって来る赤ん坊のミニチュアダックスフンドの三四郎にはアイリス・オーヤマのおしっこボックス。
ま、なんといい日だろう。
あとは、一日も早く、コロナがピークアウトして、普通のインフルエンザ程度になってくれる日を願うばかりなのであーる。

ということなんだけれど、息子の誕生日を迎えた翌日、ぼくはドルドーニュ県のトリュフ産地にトリュフ狩りに行くのだけど、朗報が・・・
ずっと雨だったのに、またまたずっと快晴なのであーる。
日頃の行いが良すぎるので、ちょっと怖い父ちゃんだが、感染拡大しているので、当日までコロナに罹らないよう、毎日、検査をして、向かいたい。
かわいいトリュフ犬たちと、広大なの農園を走り回って、(電波の届く範囲でね)、大きなトリュフを見つけたいと思うのであーる。これはなかなか見ることのできない、今世紀最大のオンラインツアーになるので、ぜひ、ご参加くだされ。
詳しくは、こちらから・・・。

ムーケ・夕城(トリュフ栽培士)×辻仁成「ブラックダイヤモンド、黒トリュフの魅力」辻仁成がトリュフの聖地ドルドーニュにて、トリュフ狩りに初挑戦
2022年1月16日(日)20:00開演(19:30開場)日本時間・90分を予定のツアーとなります。
【48時間のアーカイブ付き】
※アーカイブ視聴URLは、終了後(翌日を予定)、お申込みの皆様へメールにてお送りします。

この講座に参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ

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※ フランス南西部に位置するドルドーニュ地方の山奥に位置するトリュフ園からトリュフの魅力を御覧頂く予定の生配信を準備しておりますが、天候など様々な理由で一部変更になる可能性もあります。山奥にある、広大なトリュフ園からですので、電波が乱れる可能性もございます。最大限の状況を模索しながら、当日、トリュフ犬と栽培士さんらと力を合わせ、挑む形になります。嵐にならない限りは決行いたします。
当日はZOOMではなく、映像の綺麗なVIMEOで配信をします。

滞仏日記「息子の18歳の誕生日プレゼントを買いに、パリ市内を巡った父ちゃん」

※ ごらんください、天気予報は晴れ!!!!!!



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