JINSEI STORIES

滞仏日記「なぜ、あんな楚々とした写真を送りつけてきたのだろう、とつい邪推」 Posted on 2022/04/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスはバカンス期間中だけれど、三四郎もいるので、とくにどこかに出かける予定のない辻家である。
三四郎は欧州圏ならば飛行機で連れていくことが出来るのだけど、ロシアによるウクライナ侵攻の後、なんとなく旅行という気分にもなれないので人の少ないパリを愉しんでいる。
ちょっとの外出ならば、息子が三四郎をみてくれるようになったので、ぼくもようやく羽根を伸ばすことが出来るようになった。
小一時間、ワインバーで寛ぐとか、昨日のようにシェフの知り合いの店でくだを巻くことも出来る。これは人生における大きな前進ではあるまいか。
ここのところ冷蔵庫に期限切れが迫った食材が溜まってきたので、外食を控えないとならない。
食材ロスを防ぐうえで、育ち盛りの息子戦力は大きい。
ぼくの3倍は食べてくれるので、こちらも作り甲斐があるというものだ。
ということで今日は鶏ささ身肉と豚三枚肉とキャベツと生パスタが残っていたので、こういうものを拵えた。
これが自分でもびっくりするくらいに美味しかった。ああ、撮影しとけばよかったじゃん、と思いながら、メールをチェックしたら、制作会社のディレクター、西山義和さんから、
「できれば、辻さんのキッチンでのお顔ありの料理シーンをもう少し撮影していただけると大変助かります。よろしくお願いします」
と入っていて、思わず、口が動かなくなってしまった。キャベツと豚肉のパスタ、美味しく出来たのに、残念であーる。

滞仏日記「なぜ、あんな楚々とした写真を送りつけてきたのだろう、とつい邪推」



撮影くらい自撮りなんだからすぐ出来るでしょ、と思われるかもしれないが、これがどっこい、普段の父ちゃんはかなーりボロボロなのである。
作家業に集中している時って、まず頭髪がボサボサになるし、目の下のクマとかも一段と酷くなる。
実際の父ちゃんはテレビ画面に映っているようなちゃんとしたおじさんではなく、かなり、みすぼらしいお爺さんの域なのだ。ほんとうです。
しかも、キッチンは荒れ果てているので、今でしょ、とか言われても即対応できない。
結構、気合い入れて、まずキッチンの掃除から、その後、髪の毛洗って、熱い湯舟につかって目を見開いてからじゃないと撮影出来ないのが問題で、・・・。
今は、エッセイ集のゲラ直しで升目を睨みつけ、眼球が窪みまくり、しかも、精根使い果たしているので、いっそう、お見せできないボロボロ父ちゃんなのであった。
お見せできないので、漫画にした。これが父ちゃんの普段の姿だ、どうだ!!!!

滞仏日記「なぜ、あんな楚々とした写真を送りつけてきたのだろう、とつい邪推」



しかし、撮影しないと義和さんとLさんが困るだろうから、ここは夕飯でなんとか挽回しようと思って、ちょっと買い物をしたり、お風呂に入って顔を洗ったり、キッチンをかたずけていたら、息子がやってきて、
「今日、夜ごはんいらないから」
と言った。
「あへ」
やはり、義和的には、「ごはんだよー」「はーい」が欲しいのに違いない。(とはいえ、最近は、ごはんだよーって言っても返事がない場合が多く、ここも難易度が高い)、しかも、家にいないのじゃ、頑張って作っても、やらせになってしまうので、今夜は諦め「撮影のバラシ」となった。(撮影って、自撮りじゃん。自撮り棒とスマホを仕事場に戻しただけだろ・・・)
ともかく、夕飯、どうすっかな、と思いながらも、昨夜に続いてゲラの直しに没頭する父ちゃんであった。(皆さんにここでご報告が、エッセイ集のタイトルが「パリ、息子とぼくの3000日」に決定しました。本当は、「パリ、父と息子の3000日」だったのだけど、ぼくが間違えて、こう書いたら、マガジンハウスの偉い人が「それがいいですね」となったとか・・・。さすが偉い人である。ま、いいタイトルだと思う。二人で暮らして、3000日が過ぎた、息子はめっちゃ頑張った。辻家記念本に指定したる)
話を戻すが、何か食べなきゃ、と昨日と同じ展開になっていたら、つい今しがた、携帯に写真とメッセージが飛び込んできた。
おや、なんだろう、と思って覗き込むと、金髪の可愛らしいお嬢さんの写真である。
えええ、な、ぬあに~。
「シマと韓国」とコメントが付されていた。よく見ると、二人の間にチヂミが映っている。おお、韓国レストランにいるのだな。そして、この子が噂のシマちゃんか・・・。べっぴんさんじゃないか。

滞仏日記「なぜ、あんな楚々とした写真を送りつけてきたのだろう、とつい邪推」



シマちゃんは息子の先輩で、国立の医大生である。
長年、息子を支えてくれた頭のいいお嬢さんだが、恋人とかではない。
(父ちゃんは、この子がガールフレンドならいいのになぁ、と歴代のガールフレンドさんと比較して、こっそり、目星を付けていた)
でも、そういうことを言うと、ほんとうにマジ、ウザがるので言えない。ここだけの話。
息子も、自分の恋愛事情をパパにだけは言わないようにしてきた、と思う。
でも、今日はなぜか、シマちゃんの写真を送りつけてきた。なぜだ?
理由はわからないけれど、ただ、大学受験までの道のりを支えてくれた先輩で、一番の理解者であることを父親に伝えたかったのじゃないか、この子だよ、と・・・。
シマさんが、大学で学ぶことの意味などを音楽に没頭する息子に力説し続けてくれたおかげで、彼も受験を無事迎えることが出来たので、このお嬢さんは辻家にとって救世主の一人なのである。
はじめて写真で顔を見せられた。二歳年上だというので、やはりお姉さん感が滲んでいる。楚々としたパリジェンヌである。いいんじゃないかな~、と思うけど、いけないいけない、こういうことにおやじが深入りをしてはいけないのであーる。あはは。
ぼくはでも、その写真を保存して大事にしまっておくことにした。なんとなく、なんとなく、なんとなく・・・。
さて、父ちゃんもどこかに食べに出ようかな。でも、昨日もしんすけシェフのところにお邪魔をしたので、連日はいやだろうしなぁ・・・。
「辻さん、営業妨害ですよ」
とか言われそうだからなぁ・・・。妨害に行こうかなぁ・・・。

つづく。



滞仏日記「なぜ、あんな楚々とした写真を送りつけてきたのだろう、とつい邪推」

今日も、読んでくださり、ありがとう。

大和書房刊「父ちゃんの料理教室」は6刷が決定、今、帯を新しくしています。笑。
マガジンハウス刊、「パリ、息子とぼくの3000日」は6月30日に満を持して発売予定です。なんか予約を早めたいと担当の大島さんが言っています。

ユーロがまた上昇中で、137円を突破中。そんな中、「ボンジュール!辻仁成の春のパリごはん」 が再放送されます!!!!
<BSプレミアムのみ>2022/5/3 (火・祝) 10:30~11:29
<BS4Kのみ>2022/5/29(日) 16:30~17:29

辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
8/12(金)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜: 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
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発売日
Club BBL会員、法人会員先行=6/6(月)12:00正午より
一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より

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