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退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」 Posted on 2022/08/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、数日前、息子と、ホテルのカフェ・ラウンジでいろいろと話をした時のこと、
「パパ、ぼくね、7月、一人だった時、ずっとお弁当を作っていたんだ」
と言い出した。
「写真、見る?」
携帯を取り出し、作ったお弁当を見せてくれた。
実は、これらの写真、いとこのミナがこっそり、ぼくに、送ってくれていたので、知っていた・・・、えへへ。
「でも、なんで? お皿にいれて食べたらいいのに」
「うん、・・・でも、お弁当箱に入れて食べたかった」
「そうだね、弁当箱だけ洗えば済むからね」
ミナが息子のいない時に言った。
「あの子、ひとちゃんに毎日お弁当を作って貰っていたのが、本当はすっごく嬉しかったんだってよ。忘れられないのよ。だから、一人暮らしを前に、お弁当で食べているの。わかってあげって、息子心・・・」
ああ、そうなのか・・・。ぼくは、ぐっときた。
当時は、美味しい美味しい、と食べてくれていたっけ・・・。
あれがぼくと息子を繋ぐ、あの時期の一番大切な(会話)でもあった。(弁当時代は、小学生後半、中学前半まで続いたのであーる)

あの弁当箱たちのおかげで、この子はこんなに大きく育ったのだ。
ということで、大昔にぼくが息子に作っていた数々のお弁当を、ここで、(もすでに見たかたもいらっっ者るとは思いますが、あはは)、一緒に眺めてみましょうか。
題して「父ちゃんの愛情弁当展」

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

※これが、息子が作ったお弁当であーる。結構、上手に出来ている。日本を離れる前に、教えた、炊飯器炊き込みご飯、も入っているし、シャウエッセンのソーセージ、何より、卵焼きが良く出来ているのだ。胡瓜のおしんこ???
素晴らしい!!! 蛙の子は蛙、なのであーる。



シングルファザーになりたての頃、息子のために毎日、お弁当を作っていた。
彼が10歳の時からはじまり、中学二年生いっぱいまで続いたので、多分、1000箱は超えている。
学校に持っていくためのお弁当じゃない。
たんなる朝ごはんである。
なんか、給食がまずいというので、そうか、父ちゃんの出番だな、と頑張ってた。
そうおい口実だけど、実は父子の絆を強くするための、作戦…。
二人きりになった息子の寂しさを言葉じゃなく、料理で癒し、応援したかった。
なので、思えばあの日から、父ちゃんはお弁当作家になったのだ。



今日は、このパソコンの中に保存していたお弁当軍団の中から、思い出深いものを選んで、展示したい。
題して、滞仏美術館「辻家のお弁当愛情芸術展」、である。
※ 順路に沿って、閲覧ください。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

高菜ライスが息子の好物で、福岡の実家に戻ると高菜ライスの話ししかしない。そこで、せがまれて作った。高菜はパリの中華食材屋で手に入るのだ。明太子と卵焼きを載せて。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

薄いとんかつのサンドイッチだけど、ようは前日の残り物を工夫してパンで挟んだだけの…、あ、でも、パンはブリオッシュなので、甘くて子供にはたまらない。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

彩ってのは子供にとってアートの感覚を養う上でとっても大事な要素で、時々、見た目に華やかな弁当を作っていた。だいたい、そういう時は息子君、元気がない時なんだよね、…。



退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

鮭弁を作ろうと思ったのだけど、父ちゃんのスケールがでかすぎて、笑、でも、このくらい豪快だとでっかい子が育つよ。ガーリックのクリームソースを添えて。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

普通のハムサンドなんだけど、弁当箱に詰めると、なんか違った美味しさが演出されるでしょ? 野菜とかこう見えても結構入ってて。でも、うちのルールは残さず食べる、だから、…。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

ドライカレーにカレーをかけたお弁当ね。そのまんまなんですけど、これ、うまいんだよね。二重のおいしさ炸裂。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

焼きそばだって弁当箱につめると風格が出るでしょ? 絹さやと揚げ豆腐が主張しているけど、あくまでも、メインは焼きそばなんだよ。



退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

これね、覚えてる。苦肉の策で作ったお弁当で、こういう遊び心のあるものは土曜日とか日曜日の週末弁当に多いです。よく見て、下に引いてあるのはイタリアンロースハムなんだよね。えへへ。これ、どうせいっちゅうねん。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

ちょっとジジ臭いお弁当ですけど、これもようは前日の残り物を詰めたもので、エスカベッシュのお弁当ですね。ちょっと酸っぱい酢漬けのお魚、美味しいですよ。地味弁ですけど…。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

でた、これが、本物のドライ弁当です。下は白ご飯で、上にひき肉のカレー炒めが載っていて、実は甘いんです。この頃、与えすぎで、息子くん肥ってました。父ちゃんのせいなんだけど、美味しいからしょうがないですね。お弁当って毎日だから悩んでる暇はなし。どんどん、作って、どんどん食え~。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

ぼくね、巻きずし作るの大好きで、たまに弁当箱に忍ばせておくと、息子が蓋を開けて、わああああ、と驚く声、笑顔がこぼれてました。特に、父ちゃんの太巻き、美味いんです。うっすらとマヨネーズ入れてますから、…。えへへ、マヨラーです。



退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

名古屋のね、天むすが食べたくなって作ったんだけど、ちょっとダイナミックですごいでしょ? 子供はこういう遊び心、大好き!

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

シンプルイズベストですね。見た目はこんな感じですけど、中にマヨネーズが入っているので、ジューシーで柔らかいんです、実際は!

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

これ、サーディンなんですよ。ひらいてかば焼きにするんです。鰻のかば焼きが食べたい時に作るんだけど、鰻には敵いません。でも、かば焼きにすることでやっぱ、美味しいですね。あまだれ、最高っす。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

あはは、これは見なかったことにしてください。このソーセージ、反則だね。でも、子供受けは一番。



退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

マルシェで買ったお魚はその日食べない場合、すぐに味噌漬けとか、麹に漬けるんだけど、やっぱ和食弁当はこうでなくっちゃね。蓮根なんてなかなか手に入らないんだよ。中華街までわざわざ買いに行くのです。父ちゃんの息子に和食を忘れてほしくないという一心ですね。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

お弁当にはこうやって味噌汁とか豚汁を付けることが多いです。和のバランスがとっても大事なので、息子はいまだに味噌汁青年なんですよ。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

10歳の時の息子とチャチャ君です。いつもお弁当を食べる時、隣にこの子がいました。今もまだ、いますよ、我が家に。もう、相当、ぼろぼろなんだけど、大事な家族ですからね、家族大事だね。
な、ちゃちゃ。

退屈日記「パパ、ぼくはパパと会うまでずっとお弁当を作ってたんだよ」

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
いやぁ、こんなに神経をつかっていると、ちょっと疲れますが、でも、明日のライブは最高になるでしょう、えへへ・・がんばりまーす。

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