JINSEI STORIES

滞日日記「やりにくい、といえばやりにくい。だって撮影現場に息子がいるんだもの」 Posted on 2022/08/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ちょっとやりにくいことがあるのでご報告したい。
それは撮影現場に息子がいる、ということだ。
ぼくは映画監督をしている時は、体力の続く限り、誰よりも動き回るタイプの行動派監督で、声も態度もでかいし、全体を盛り上げながら、時には笑わせ、時には怒って、引き締めたり緩めたり、急がせたり休ませたり、とにかく、忙しいなのである。
根がせっかちだから、動き回るのが自分流みたいなところもある。
音楽活動に似ているかもしれない。
それだけに、頭の中でアドレナリンや、ドーパミンまでもがばんばん出ている状態なのだ。一人で盛り上がって、力づくで部隊を進めていくタイプなのだが、・・・。
人がここちよくドーパミンを放出しているのに、その撮影部隊の一角に、息子がいたりすると、ひゃああ、あいつがおる、となって萎縮してしまうのであーる。
不意に父ちゃんに戻っちゃうのであーる。
監督になりきってがんがん、げきを飛ばしているのに、その視線の先にこっちをじっとみる我が息子がいたりすると、うわあああ、どうしていいのかわからにゃーい、と萎えてしまうのであーる。
つまり、息子は父ちゃんのアキレス腱(けん)。

滞日日記「やりにくい、といえばやりにくい。だって撮影現場に息子がいるんだもの」



今日も、乱闘シーンの直前のけっこう神経を使う場面で、視線を感じてふりかえったら、スタッフの後方に立って、じっと父ちゃんのことを見ている息子がいた。
ぎょええええ。
で、思わず、視線をそらしてしまった。(じゃんかぁー)
「監督、どうされましたか? 熱中症?」
と撮影部の若者に言われ、え、あ、いや、なんか、視界を過ったの、とわけのわからないことをつぶやき、右往左往する、父ちゃんなのであった。超・やりにくい。
とはいえ、実は息子もこの撮影にかかわるスタッフの一人なので、ここは、撮影現場に家庭を持ち込んじゃーならない。
見ないように見ないようにしているのだけど、見ちゃう、父ちゃん。
カットとカットの合間の僅かな時間を利用して、誰にも気づかれないよう、息子の方へと、つかつか、進んで行き、耳打ち、・・・。
「どう? 撮影」
それが、精一杯。
「うん、すごく勉強になる。カメラマンの動きとか、撮影の全体とか、よくわかる」
「そうか。よかったな」
そして、何食わぬ顔で、カメラマンの横に戻り、再び、監督に戻る父ちゃんなのである。

滞日日記「やりにくい、といえばやりにくい。だって撮影現場に息子がいるんだもの」



このチームのいいところは、余計なことは言わないし、真面目な子たちばっかり・・・。
もっとも、映画の撮影隊って、本当にみんな映像がすきな真面目な子が多い。
今回の福岡勢も正直、年齢は若いけれど、才能あふれる子たちばかりで、福岡のレベルの高さを思い知らされている。
主力選手の年齢は20代後半から30代半ばくらいであろうか? 
とくに撮影部は若く、一番年上のカメラマンが32歳・・・、18歳の息子にとってはちょっと年上の先輩という感じで、居心地良さそうだ。
撮影の合間に、ヘアメイクさんや、助監督さんらと、ずいぶん、やり取りをしたみたいで、夕食の時間に、ぼくの知らない撮影の裏側の空気感や、彼らとのやり取りを話してくれた。
「へー、みんないいやつらだろ?」
「うん。こうやって一丸になって作品を作るという仕事は素晴らしい」
鼻が高い、父ちゃん・・・。
38歳の時に撮影した「千年旅人」という映画は、撮影監督とそりが合わず、経験がない分、部隊を掌握するまでに超・神経を使った。
あれから20数年が経ち、今は、みんなゼミ生のような感じになった。時代は変わった。気が付けばぼくが一番年上になっている。
何事も経験の積み重ね、そして、継続の力。ぼくはぼくのスタイルで映画を撮り続けている。
「面白いだろ、映画の撮影現場って。世界の縮図があるだろ?」
「うん。音楽とはまた全然違うよね。でも、不思議なのは、パパがつい先週の金曜日には横浜のビルボードのステージで歌っていたってこと・・・」
「あはは、確かに」
ぼくらは笑いあった。

滞日日記「やりにくい、といえばやりにくい。だって撮影現場に息子がいるんだもの」

※ 撮影部のスタッフたち。カメラマンがいない時に、こっそり、撮影させてもらった。背中に、「地獄を覗け、目を逸らすな」と書かれている。何事も経験に勝るものはない、ということであろう。今時の子らとは思えない真面目さがある。大変なことを率先してやり、汗水を流している、すばらしい。いい映画にしてみせたい!!!



ステージの上では華やかな存在じゃないとならないけれど、映画の現場では逆に存在を消して、汗だくになって、引率する先生よろしく、もしくは現場監督に徹しないとならない。
「普段、偉そうにしているパパが、凄く、気を使って、部隊を動かしているのが面白い。音楽と映画、似ている部分もあるけれど、何かが違うんだよね。それが面白い」
「だろ? いろんな人生がある」
「何が目標なの?」
いい質問であった。

滞日日記「やりにくい、といえばやりにくい。だって撮影現場に息子がいるんだもの」

※ 九州が生んだ、カルピスソーダみたいな、スコール!!! 宮崎だったかどこかの飲料水なんだけど、九州では大人気、というご当地の名物、これ、うまいっす。汗まみれの撮影に、一瞬の、スコール!!!! ありがたい。
そして、撮影の合間に、カレー。いや、あの、カット割りをしているついでに、喫茶店でカレー食べた、だけです。美味かったぁ。

滞日日記「やりにくい、といえばやりにくい。だって撮影現場に息子がいるんだもの」



「いいか、よく聞け、パパは死ぬまで人生を諦めないし、死ぬまでこの与えられた人生を思う存分生き抜いてやりたいし、パパにはまだ、表現しないとならない世界が無限にある。この一度の人生で全部出し切って死ねるか、今はそれだけが、心配でならない」
ぼくらは静かに笑いあった。
でも、誰にも支配されず、生き切ることだと思う。
精一杯、今日を・・・。

つづく。

ということで、今日も読んでくれてありがとう。
撮影って、早朝から夜遅くまでびっしり分刻みで動くので、ちょっとの間、乱筆乱文、お許しくださいませー。普段より、誤字が多いかもしれませんが、がんばりまっす。

地球カレッジ

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