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滞日日記「87歳の母さんが、おパリーに行くのが夢ったいと言い出し、大慌ての巻」 Posted on 2022/08/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子くんは今日から弟と母さんと大川で墓参り、それから雲仙へと旅立つことになっている。
その前に、家族四人で食事会となった。
息子はその後、先発して、福岡を離れる。ぼくはもうちょっとだけ映画と向き合ってから、パリに戻ることに・・・。
「あんた引っ越しもあるとやろ? 十斗は大学に行くとやろ。この子も一人暮らしするとやろ。映画も、引っ越しも、わんこもおってからに、NHKのびーえすもあって、ばいー、忙しかったいね。ただ、健康管理だけはちゃんとやらないけん。自分の体は自分で守らんと」
不意に、三人の視線を浴びた父ちゃん。
「大黒柱やけんね、あんた、倒れるわけにはいかんたい」
で、ここで必ず出てくるのが、友人の済生会病院の大倉先生なのである。
「先生のところで撮影の合間に時間を見つけて、精密検査せんね」
母さんの忠告は聞いておく。ぼくは人の話は聞かないが、母さんの忠告だけはちゃんと聞いてきた。
その場で先生に、メッセージを送ったのである。
「よかですよ、じゃあ、日程を調整しましょう。辻さんが忙しいでしょうから、こちらもあわせるようにしますので」
ということで、不意に定期健診が決まった。やれやれ。

滞日日記「87歳の母さんが、おパリーに行くのが夢ったいと言い出し、大慌ての巻」



ぼくは確かにまだ白髪はないのだが、還暦越えである。←何自慢?
ビルボードで2ステージ歌えるので、結構元気な方だとは思うが、92歳まで現役で歌い続けたシャルル・アズナブールに負けないくらい活動するなら、健康は不可欠である。
まずは、自分の身体の状態を知っておく必要がある。
コロナ禍前はよく健康診断受けていたが、思えばこの3年、病院もコロナ患者さん優先だったので、ぼくのような者はできるだけ行かないようしていた。
でも、還暦を過ぎたことだし、一度、怖いけど、自分のコンディションを知っておくべきだろう、と思ったのだった。
母さんの忠言には逆らえないし・・・。
「でも、ババは87歳でも、杖つかってないね」
と息子が言った。
「そうったい。私の夢はひとなり、お前の住むパリーに行くことったい、杖なしで」
ぼくは思わず、飲みかけのビールをこぼしそうになった。
「なんですとー。パリーに来るとですか?」
「初耳ったいね」と恒ちゃん。
「母さん、飛行機代が」と恒ちゃん。
「なーんも、そんなのは心配せんでもよか、ひとなりはびーえすにも出とるし、本も出しとる。それくらい、親孝行やけん、せんか」
来たー。ビールを吹き出してしまった。どばどば・・・。
あはは、と笑う、十斗くん。
「十斗、お前、笑ってられないよ。ババを空港まで迎えに行くのは孫である君の仕事だからね。当然でしょ? 」
「あ、でも、ぼく免許持ってないし」
「18歳になったんだから、すぐとれるよ」と恒ちゃん。
「タクシーでいいよ。電車で空港まで行って、タクシーでホテルまで。君はこれから雲仙まで連れて行ってもらうんだから、パリに来たら、ババの面倒をみないと」
「ええええ、でも、パパのお母さんでしょ?」
「君のおばあちゃんでしょ?」
「まあまあまあ、二人出来たらよか」と恭子さん。
げげげの辻太郎なのであった。

滞日日記「87歳の母さんが、おパリーに行くのが夢ったいと言い出し、大慌ての巻」



実は来年、5月の後半にフランスで大きなワンマンコンサートを計画していて、それに行きたい、それば観劇したか、と言い出したのであーる。
「あ、いや、まだそれ、決定じゃないんだよね。プロモーターと協議中なんだ」
「決めたらよか。来年はあんたの当たり年やけん」
出たー。方角とか、当たり年とか、この年齢の人はうるさい。

滞日日記「87歳の母さんが、おパリーに行くのが夢ったいと言い出し、大慌ての巻」



「来年の5月にフランスに行く、という私の目標が、出来たったい。100歳まで生きるための、大きなエネルギーになったい。杖をつかわんで、パリーまで行き、周囲のフランス人の羨望を集めてみせてやるったい。母さんは、フランス刺繍ば日本に広めた大勢の中の一人やけんね、日仏交流のためにも、行かなならん」
行かなならんって、勝手に決めんなよ、とか思いながらも、
「あの、お母さま、パスポートは持っとるとですか?」
と訊いたひとなり。
「そげんなもん、もっとらん。とればよかでしょう。発行は国の仕事ったい」
「しかし、コロナとかサルなんとか感染症とか、ウクライナ戦争もあるし」
「そげなもん、87歳の恭子は怖くなか。いつ死んでも後悔のない一生やった。最後に、夢である、お前の街、花の都、パリーに行くったい」
げげげの辻太郎! でも、これは実現するような気がする・・・。
運命やいかに。

つづく。

はい、ということで今日も読んでくれて、ありがとう。
ついに、最強母ちゃんが、パリを目指す宣言をしたので、戦々恐々としながらも、なんとか、万全な受け入れ態勢を作らなならん、という辻家、成員、二名なのであった。十斗のお兄ちゃん夫妻も来る可能性があるので、その時期に、大集合やもしれない。家長として、フランスで受け止めないとならない予感、はい、・・・頑張ります。
えへへ、宣伝です。
そのNHK・BSなんですが、
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の放送日が決まりました。
NHK BSプレミアム / 4K同時
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」
9月23日(金・祝)22:00〜22:59放送
となっているようです。ちょっと先ですけど、メモメモ・・・。

地球カレッジ

滞日日記「87歳の母さんが、おパリーに行くのが夢ったいと言い出し、大慌ての巻」

※ 撮影好調!!!! 中洲の皆さん、応援、ありがとう。



※ 25歳以下のアーティスト、表現者の皆さん、締め切り、迫りつつありますよ。がんがん、「新世代賞」にご応募くださいませ。

第6回 新世代賞作品募集

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