某月某日、レコーディングに差し支えが出てきたので、これは病院できちんと診て貰った方がいいだろうと思い、主治医の近藤先生のクリニックに駆け込んだ。
緊急の患者さんで待合室が混雑していた。２，３０分くらいして、もう一度来られた方がいかもしれません、と言われた。
モンパルナスに来るのは先生のクリニックに顔を出す時くらいになった。
大通りに面したカフェに入り、聳える高層ビルなどを見ながら、待機した。
横にならなければ、咳は出ない。不思議な症状である。
三四郎を一人でお留守番させてきたので、監視カメラで様子を覗いてみたら、お、寝てるじゃーん。笑。
この子は本当におとなしいわんちゃんである（噛み癖は凄いけどね）。そもそも、一切、吠えない。
最後に彼が吠えたのはいつだった？　思い出せない・・・。吠えない犬もいる、というのを、犬を飼ってはじめて知った。
歩道で他の犬とすれ違う時にも、相手の犬が吠えて威嚇しても、じっと見ているだけ。（時々、尻尾をふったりしている、笑）
いつもの肘掛け椅子の上で、黒くなって、丸まっていた。
よしよし、安心。

時間が来たので、クリックに顔を出した。九州出身の優しい先生である。
「辻さん、まだ混んでいますから、出来るだけ他の患者さんから離れて座って待っていてくださいね」
いつも思うのだけど、レイモンド・チャンドラーの探偵小説に出てきそうな、風貌だ。
クリニックに差し込む光りも、どこか、探偵事務所のような風情。
静かな時間が流れている。患者さんは、この界隈の方々が多いようである。
地元の人たちに慕われるドクターなのであった。
「辻さん、どうされましたか？」
笑顔で、物静かに語ってくれるから、患者さんも安心する。ぼくはいつもここに来るだけで治った気持ちになる。（先生、実は、心臓の専門家だ）
ぼくは症状を話した。先生は静かに聞いている。
「じゃあ、ちょっと、診てみましょう」
ぼくは診察台に横たわった。
熱は３６度７分もあった。ぼくの平熱は３６度なので、高め。血圧を測り、聴診器で肺の音を確認し、黒目にライトをあてられ、喉の奥もじっくりと調べられた。
「ふむふむ」
先生は処方箋を書き始めていた。ということは、もう結果が出た、ということ！？

「先生、ぼくの病名はなんですか？」
「気管支炎です」
あ、やっぱり。思い当たることがあった。
コロナテストも陰性だし、頭痛もないし、鼻水もない。風邪じゃないのは、分かっていた。
「パリの空気は汚染されていますからね、ポリューションの影響もあるかもしれません。それに、先週、ものすごく暑かったでしょ？　体調のバランスも崩れたのかもしれません」
「パリに戻ってすぐ、海沿いの田舎で過ごしていた時は問題なかったので、確かに、空気汚染（ポリューション）は考えられます・・・」
「実は、パリはかなり空気が汚染されています。見た目にはわからないので、気を付けないとなりません。とにかく、回復するまで無駄なおしゃべりを避けて、穏やかにすごされてください」
ぼくはお礼を言って、探偵事務所を後にした。探偵さんはいつも、出口まで、見送ってくださるのだ。
病名がわかって、すっきりした。
薬局に行き、吸入型のステロイド投与薬と抗ヒスタミン剤をゲットした。この週末はレコーディングを中断し、体調を戻すことに集中しなければ・・・。
帰り道、教会の前で立ち止まり、秋の空を見上げた。
痴呆の症状が出始めた母親のことも心配だけれど、自分もこれから、ここで、どうやって生きていこうか、と考える。気管支炎だったからまだよかったけれど、もっと大変な病気だったら、どうやって、三四郎の面倒をみて、どうやって、自分を労わって生きていけばいいのか・・・。
年を取ると、こういう問題が立ちふさがるものである。やれやれ。
それでも、前向きに生きていかなきゃいけん、と父ちゃんは思った。
合言葉は今日も熱血！　なのである。

つづく。

ということで今日も読んでくださり、ありがとうございます。
「気管支炎」だったことが判明し、身体との向き合い方が分かったので、ちょっと安心をしました。出来るだけ早く治して、元気になって、レコーディングを再開したいと思います。ちなみに、あの「ZOO」をボサノバにしてみたのだけど、これが、かなーり、いいですよ。これはもう最近のZOOの中では傑作です。ロブソンとジョルジュはブラジル人なので、本物のボサノバになったZOO、皆さん、お楽しみに！！！
愛をください♪
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